黒犬の放課後
ツーソンの犬の生活
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ハーネスを外して
暑い!
野生動物と遭遇?
邪魔しないで
(以下追加していきます♪)

 ハーネスを外してボールをくわえて走るニッキー。
 写真は、アパートの隣の中学校のグラウンドで駆け回る黒犬ニッキー。フェンスに囲まれた広いひろーい芝生でのボール投げが日課です。

 アメリカの、介助犬や盲導犬を育成するプログラムのほとんどは、毎日犬をノーリードで運動させるように指導しています。対して、「走りたいという気持ちを持たせないために、走らせない」のが日本の一般的なやり方。
 ニッキーに走り回ることを体験させるかどうか、私は結構悩みました。

 仕事をする犬は、仕事の時間とそうでない時間、あるいは仕事として指示されたこととそうでないことを区別します。この区別が出来るからこそ、長時間パートナーに付き添っていても上手にリラックスできるのです。ニッキーがきちんと「仕事の時は走らない」ことを理解できれば、「仕事でない時に走る」ことに問題はありません。
 きちんと仕事をして、ハーネスを外したら犬として思い切り遊ばせてやろう。それが理解できなかったり、走りたくて我慢するのが苦痛だったりしたら、それはこの犬が介助犬という仕事に適さないこと。その時にはきっぱり訓練を打ち切ろう、ニッキーを「ただの犬」にしてやろう、それが、飼い主の結論でした。

 黒犬ニッキーは、アクセステスト(公共の場に出るための基礎的なマナーに対する審査)を終えて、あちこちに私と出かけるようになってから、やっと! ようやく! ついに! 自分の仕事をはっきり自覚し始めた感じ。
 ニッキーは介助犬に向いていないと思うことも何度かありましたが、最近参加したADIの会議で沢山の先輩犬達がパートナーに集中している様子から、何かを感じ取ってくれたようです。
 生れた時から盲導犬や介助犬になるように育てられた犬に比べて、匂いを追って走り回ることを先に教えられてしまった元麻薬犬候補の黒犬ニッキーは、辛い思いをしたかも知れません。
 だから、やっとお仕事犬の自覚を持ち始めたニッキーに、ハーネスを着けて一緒に出かけられること、そしてその後で思いきり遊んでやれることが、ほんとにすごいことに思えます。

 よく我慢してくれたね、よく気づいてくれたね。ありがとう、ニッキー!

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ツーソン在住のコヨーテさん。分かりますか?  野生動物と遭遇?
 5月の終わり頃、いつもどおり散歩とボール投げを終えて帰ろうとした時。ニッキーはリードなしで大人しくついてきたので、「ま、いいか…」とグラウンドの出口までリードを着けないまま向かいました。
 すると。
 なにやら灰色っぽい、大きなケモノが登場。私の古いふる〜い記憶がよみがえります。「これ、昔『野生の王国』で見た…!」――もしやこれが、ツーソンの犬の飼い主が恐れる、野生のコヨーテ?!
 そう、ツーソンは素晴らしい野生の王国です。さそり・ガラガラヘビ・タランチュラは、市街地には(多分)いないけれど、愛犬ティナちゃん(ゴールデンの女の子)を日本から連れてきたKさんに、朝早く犬を散歩させていると、ごくまれに、コヨーテやいのししの仲間ハヴェリナに遭遇すると、私は聞かされていました。コヨーテは人間を見ると逃げ、ハヴェリナは向かってくるんだとか。
 なんてことを言ってる場合ではありません。
 ニッキーがやられる! と思った瞬間、私のスイッチは常識モードから非常時天下御免モードに切り替わりました。
「どぅぉりゃぁあ〜〜〜っ!!
 うちの犬食ってみろ、私がお前のこと食ってやる!!」

 アリゾナのコヨーテを日本語で脅しながら、車椅子で突進。当然車椅子なんて見たことのないコヨーテは逃げました。
 ところが。
 黒犬ニッキーはコヨーテについていくんです、しかもしっぽふりふり♪で。「ニッキー、カム!」と叫んだ私の声は、恐怖で裏返っていました。犬が従う威厳なんてありやしない飼い主を後ろに、ニッキーはコヨーテに興味津々です。少し逃げては戻り、また逃げては戻りするコヨーテ、余計に興味をそそられてついていくニッキー。
 またまた古いふる〜い記憶がよみがえります。「こういうの、昔『シートン動物記』で読んだ…!」――そう、勇猛果敢な猟犬は、こうやってコヨーテや狼に誘い出され、気づいた時には飼い主の姿ははるか遠く、あっという間に群れに囲まれて…。

 もうパニック。何としても呼び戻さないと、目に入れても出しても痛くない大事な黒犬ニッキーがコヨーテの餌食にされてしまいます。
 私のポケットには訓練を終えて外したチョークチェーンがありました。ステンレスのチェーンを思い切りぶつければ、コヨーテも驚くかもしれないし、ニッキーに当たったってこの際かまいません、安全な場所に戻ってきてくれれば。
 チェーンを持った右手を振りかぶったその時。
 私がコヨーテと見間違えたの飼い主さん登場…………。
「は、はろー♪」ジャパニーズスマイルと共に、右手をそっと隠す私。
 よく見ればコヨーテよりもリカオンに似た丸刈りの(酷暑のツーソンでは、長毛犬は5月頃からマルガリータになります)、それはシェパードさんでありました。
 私が優美なシェパードさんを野生動物と間違えて大騒ぎしている時、シェパードの飼い主さんは我がおちびな黒犬ニッキーを、黒くて巨大で恐ろしい犬と勘違いしたようです。Hi! とか言いながら隠したその手に石が握られているのを私は見た…。

 そうです、私も黒犬も無事でした。でもね、もしシェパードの飼い主さんが銃を持っていたら。私だって銃を撃てたのなら、ニッキーが危ないと思った時点で撃っていたでしょう。

 そういう事態はないとは言えません。どんなに大人しく友好的な犬でも、実際に何もしなくても、誰かを怖がらせることがあり、危険な目に遭うこともあるのです。犬を護るためにリードを放さない必要性を、改めて感じた一件でもありました。それに…呼び戻しの訓練・犬友達の誘惑の中での訓練が強化されたことは言うまでもありません。
 なんか、失敗に無理やり教訓をくっつけてるような気もするが…とりあえず、無事でよかった。

コヨーテのお尻。

 ここで、誤解してしまったお詫びをかねて、本物のコヨーテさんに再びご登場頂きます。
 撮影場所は、ツーソンの観光マップにもあるソノラ砂漠博物館(Sonora Desert Museum)。決して我が家の周辺、犬の散歩に行く範囲にこんな風景が広がっている訳ではありません。みなさんが期待するほどの田舎ではないのよ…。
 砂漠博物館は、かなりレベルの高い動物園でもあります。ソノラ砂漠の野生動物がそのままの環境で見られる訳ですが、園内のコヨーテ地区の順路には、「多くの人が誤解していますが、実際のコヨーテはこのサイズです」という説明と共に、リアルな石像がいくつかあります。
 我が愛しの柴系雑種ロンちゃん・体重13キロとほぼ同じくらいでしょうか。毛並みが厚い分を考えるともっと小さいかも。少なくとも黒犬ニッキーよりずっと小さいです。獲物となる生き物も、ねずみやジリスのような小動物が多いようです(ジャンプしてねずみを上から捕らえる姿の石像もありました)。
 群れになれば馬も犬も狙ったかもしれないけど、警戒心が強く繊細で小さなコヨーテは、人間の誤解で随分撃たれたのではないかと想像してしまいます。
 ツーソンの風景には、ここに人が住む前から立っているサボテンや山々があり、車で少し行けば砂漠があります。ここはもともと彼らの生息地だったのだと、今でもその風景から感じられるのです。

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記念撮影はもちろん日陰で! 左から、リサとゴールディ、マーディとリリー、相棒とニッキー。 暑い!

 ツーソンは、年間360日は太陽が顔を見せる、日照時間全米一の砂漠の町。5月には日中の気温が華氏100度に達します。その頃から、ふさふさ犬達が続々とマルガリータになって、ものすごく笑えます―が、丸刈りの話は後にして。
 日本より湿気がないから、直射日光さえ避ければ快適で、風が通れば爽やかなアリゾナですが、汗腺のほとんどない犬は、人間の体感気温以上の暑さにさらされています。そして、さらに大変なのが地面の熱さ。
 舗装された道、特に黒いアスファルトの路面は、朝と夜以外はすごい熱を持っています。普通に歩く人より地面に近い車椅子の私には、夏の昼間はドライヤーの熱風のように下から熱さが吹き上げてくるのが感じられました。犬にはどれほどの暑さか、推して知るべしです。
 黒犬ニッキーは、来て間もない4月の終わりのある日、ほんの10分の外出で足をかばい始めました。足を交互に上げながら、車椅子の前に回って相棒に訴え、Heelも出来ないニッキー。
 ちょっとの距離だからと油断していたことも含めて飼い主のミス。結構ショックだったのですが…そんな私には信じられないことに、暑いツーソンの夏、日陰のない庭を元気に駆け回っている犬や、真っ昼間散歩させられている犬にも会います。結局、ここの犬はここの気候に適応してるんだなぁと、月並みな感心をしたりして。

 8月から個人的に訓練を教わっていたトレーナーのマーディの愛犬は、シベリアンハスキーのリリー。生後間もなくからここで育ったリリーは、ニッキーが暑そうにあえいでいる時でも口を開けさえしないで平気な顔をしています。真っ白で厚い毛並みがかえって身体を暑さから護るのかもしれません。
 リリーや、同じくマーディが訓練した介助犬ゴールディは、しっかりと固い足の裏をしています。一方ニッキーの足は
ぷにぷに。ツーソン育ちの犬より敏感な足です。その足を触ったマーディは、「飼い主が過保護!」と断言。もっと沢山歩かせて、少しずつ丈夫にしてやりなさい、と言われて、ほんとに少しずつ、練習しました。勿論半分凍らせたペットボトルや犬用の靴をしっかり持って。
 で、その練習の成果はというと…ニッキーの足はまだ
ぷにぷにです。でもね、地面が熱いからといってHeelやSitのコマンドに従わないことはなくなりました。
 相棒はニッキーのリードを左手首に結び付けて出かけます。リードを通して、そしてハーネスのハンドルの動きで、ニッキーの動きは見えなくてもすべて伝わってきます。足をかばおうとするのも、少しでも早く通り過ぎたい気持ちも解ります。そんな時でも車椅子の速さに合わせて歩いてくれ、必要な時は指示すれば座ってくれるようになりました。勿論、犬が火傷する可能性がある時は指示しません。
 犬を護ってやることと甘やかさないこと。飼い主がその区別をする練習の方が先だったようです。

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マットとおもちゃの数々、ニッキーの宝物。 邪魔しないで

 いい年してハイパーだの、集中力が続かないだの、運動神経が皆無だの、小心者だの、いつもはめちゃくちゃに言っている我が黒犬を、今回はちょっと褒めます。
 ニッキーは、家の中で一緒に暮らす犬としては最高です。許可されたおもちゃ以外の物をいたずらすることも、ベッドの上に乗ることも、食事の邪魔をすることも、勿論排泄することも一切なし。「どいて」と声をかければ、気持ちよく眠っていても夢中になって骨を噛んでいても、さっと場所を空けてくれます。そういうことを教えるのに特に苦労した訳でもありません。我が家に来たばかりの頃、家の中で壁に足を上げておしっこをした時、ベッドに飛び乗った時、鉛筆をかじって遊んでいた時、それぞれ一度だけ強い調子で「No!」、それだけ。相棒とふたりきりの「家族」で、相棒がボス、自分はその部下と納得してくれているニッキーは、当然相棒の邪魔はしないのです。
 そんなニッキー、家の中ではクレートとマットが「自分の場所」として与えられています。「トレーニングや運動以外の時間はなるべくクレートに入れて、必要以上にかまわない」というしつけの方法もあるでしょう。反対に「閉じ込めていたら犬との関係が出来上がらない」という意見もあるようですね。我が家の場合は、犬と人間が24時間一緒、必要な時には夜中でもニッキーを呼んで仕事をしてもらうので、「必要以上にかまわない」ことは出来ません。でも、働く必要がない時にはくつろいで自分の時間を過ごして欲しいので、犬が安心できる場所は必要。結局扉を閉めないクレートとマットを使うことにしました。
(* アメリカではいちばん狭いジュニアサイズのアパートメントですが、日本人の感覚ではかなり広いので、相棒がどこにいても見えるようにニッキーの場所が2箇所になってしまいました。)

 アメリカ人は大型犬でも室内で飼うことが殆どのようです。ジャーマンシェパードを飼っている友人の家には、キッチンに「犬ドア」があり、フェンスに囲まれた庭とキッチン、奥の一部屋を犬が自由に行き来しています。家族にもお客さんにも従順で大人しいけれど、怪しい物音がすれば庭に出て番犬することも。4頭の犬を室内で飼う知人の家では、ゴールデンリトリーバーからチワワまで、大小の犬達が子供のいる家族と同居しています。子供達がきちんと犬に接するのには感心しました。
 どちらの家にも共通するのは、犬が飼い主や客を邪魔しないようにしつけられていること。コマンドに従って、さっとソファから降り、テーブルから離れ、呼ばれるまで決められた場所でじっと待っています。普通の家庭犬に、そのしつけが当たり前のように出来ているのです。客を歓迎しすぎれば飼い主が「もうおしまい」と声をかけます。その途端、犬はさっさと行ってしまうので、犬好きなお客としてはちょっと淋しかったくらい。
「うちは特に訓練はしてないのよ」と言い、時々人間の食べ物をあげたり、ベッドで一緒に寝たり、いわゆるしつけ本によれば絶対にしてはいけないことをしていても、飼い主をボスと認め、邪魔しないアメリカの家庭犬達。犬と飼い主の関係さえきちんとしていれば、形がどうであれ問題はないのかもしれません。
 しつけの「方法」は犬と人の関係を作っていくためのもの。本当の基本である「犬との関係作り」はやはり、犬と共に暮らす文化の長い欧米の人達の方が日本人より上手いようです。


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