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くろいぬ日記

黒犬ニッキー、アリゾナ育ちの東京暮らし。

2003年6月の日記

■2003/06/30 (月) 新しいケイタイ

 日本に帰ってきてからずっと使っていた携帯電話が、ついに使えなくなった。電話そのものより、私の視力が変わったので、画面の文字が見えなくなってしまったのだ。
 で、本日機種変更に行ってきた。いや、こんなこと言うととってもオバサンくさいけど、今のケイタイって、みんなカメラが付いてるのね。しかもみんな折りたたみ型。私の好みとしてはもともと折りたたみ型が好きだし、カメラもそれなりに楽しそうだ。
 でも、ニッキーがカメラのレンズ部分を傷つけないでくわえたり拾ったり出来るかな? 軽く不安。ニッキーは見事な「ソフトマウス」で、今まで眼鏡もビーズ製品も傷つけたことがない。やったことはないけど、生卵も割らないで運べると思う。でも、その器用で繊細な口に比べて、前足のほうはがさつ。くわえるのは心配ないけど、そのために前足で引き寄せたりする時が、微妙に心配なのだ。
 それに、折りたたみ型の電話は、充電機からなかなか外れない。私がストラップを引っ張ってみても、充電器からうまく外れてくれなかった。必要な時に上手に持ってこれるように、練習だね、にっちゃん。
 まずは「Cell」(ケイタイのこと)という単語が、今日から別の形のものを指すようになったことを覚えてもらう。これは、前と同じ場所に似たようなストラップを付けたニュー電話を置いて、ちょっと練習したらOK。
 次に、じゅうたんの上やテーブルから、ケイタイを持ってきてもらう。もともとニッキーは、ストラップをくわえる癖があるので割とうまくいった。
 問題は、充電器からはずすこと。ストラップが短いのでうまくいかず、何度やっても充電器ごと下に落ちてしまう。そのたびに「あーあ」と相棒ががっかりした声を出すから、ニッキーは何をすればいいのかを何となく分かっている。
 何度目かにトライして、なかなか充電器からはずせないと見るや、ニッキーは別の部屋に置いてあった古い方の携帯電話を探して、そっと持って来てくれた。彼なりに考えたんだとは思うけど、これじゃ困るからまだ練習しなきゃ。
 ニッキー早く新しい電話に適応してね。私も頑張るから。私も、まずはメールが読めるようにならなくては…説明書を見て頑張るぞ?


■2003/06/16 (月) ニッキー退院する

 しばらく楽しんでいた病院生活とも、ひとまずお別れ。「明日からニッキーだけおいで」なんて、ニッキーと別れを惜しんでくれる人たちがいて、ありがたいなぁ、と思う。
 私は基本的に人が苦手で、しばらく誰とも会わないとかしゃべらないというのが、ちっとも苦にならない。逆に、ずっと人と一緒という方が辛い。新しい知り合いが増えることも、だからあまり多くない。私とニッキーは大体性格が似ているのだけれど、この点だけは正反対なのだ。ニッキーは、人が大好きで、初対面の犬や猫と打ち解けるのもうまい。
 人が大好きなニッキーに引っ張られるような形で、今回の入院でも、知り合いが増えた。いいとか悪いとかではなく、自分の本来の性格と全く違う行動や結果を引き出してくれたのが、素直に面白い。
 ニッキーは、仲良くなった患者さんにすりすりをし、看護婦さんたちに囲まれて記念撮影をし、病棟のエレベーターのボタンを押して、何だか得意げに、しっぽを上げて退院した。
 ニッキーとなかよくしてくれたみなさん、ありがとう! 元気でね。
 唯一の心残りは、病棟においてあった推理小説を読みかけて、犯人が分からないまま退院することだけど、まあいいか。

■2003/06/15 (日) ちょっと嬉しかったこと

 手術をして、視力はやや回復した。片目は見えないけど、片目は0.3も見える。いわゆる晴眼者の人達にしてみれば「よく見えない」と感じるレベルだけれど、私はずっと視力が弱かったから、この視力もとってもよく見えると感じる。
 で、私は見てしまった。初めて、肉眼で、ニッキーがつつーっとよだれをたらすのを。好物の牛乳を、ニッキー用のお皿に少し分けてあげたら、「ウェイト」の間によだれが糸を引いて落ちていく。
 食いしん坊のニッキーはきっと、毎朝毎晩のご飯と牛乳タイム、最低1日3回は、こんなよだれを落としていたんだと思う。ニッキーと暮らして5年半経って、初めて知ってしまった。
 ニッキーの性格、癖、得意なことや苦手なこと、何でも分かっているつもりだったけど、うーん、よだれをたらす間抜けな表情は知らなかった。

 この視力は、いつまで維持できるか分からない。私の目は進行性の障害があるから。
 見えるようになってよかった、と素直に喜ぶ気には、どうしてもなれない。子供の頃からずっと、「見えない」ことを受け容れてきた自分を、否定してしまうような気がして、手放しで喜べない。
 そんな複雑な心境の中、ある仕事の関係で、さる人物が見舞いに来てくれた。最近犬を飼い始め、すっかり親ばか飼い主の仲間入りをしてしまった人なので、ニッキーにもお見舞いの骨ガムを持って来てくれた。ニッキーは、元気いっぱいなのにお見舞いをもらえてラッキー♪
 以前に一度お会いして話した時は、とても真面目そうで、くだらない冗談は言いづらく、駄目なものは駄目と言う厳しい人というイメージがあった。でも、今日は、相変わらず真面目なその人が、私の話を聞きながら、時々片方の口元をきゅっと上げて笑っているのが見えた。
 なんだか嬉しかった。急にその人に親しみを感じたりして。
 人の話を聞きながら、きゅっと目立たない微笑を見せる人。沢山の人に接する仕事をしている人だけれど、心を込めてひとりひとりの相手に対している、そんな誠実さと暖かさを、ふと感じた。それが見えてよかったと思った。
 今まで、沢山の素敵な人に出会ってきた。多分これからも、そうだと思う。見えようが見えまいが、見聞きしたものを受け止める感性を磨いておきたい。
 見えるように「なってしまった」ことへの戸惑いから、立ち直るきっかけがもらえた出来事だった。


■2003/06/12 (木) ニッキー入院する・3

 すっかり病院の人気者になってしまったにっちゃん。私はいつも「今日はわんちゃんは来るの?」とみんなに声をかけられるようになった。もちろん犬の嫌いな人もいたけれど、特にトラブルもなし。
 ただ、困ったのは、お菓子を持ってニッキーを待ち構えている人達。期待に満ちた目で「あげてもいいですか?」と言われて、断ったらがっかりされてしまいそうだったので、犬に害のなさそうなプレーンなクッキーなんかはほんの少しだけ頂いた。
 頂いたクッキーは私が持ち、それを使って普段教えられない新しい仕事を教えることにした。離れたところにある車椅子を持ってくる、という仕事。これは、広い場所と車椅子以外の座る場所がないと教えられないので、家では出来なかったのだ。
 若い時に車椅子がひっくり返って怖い思いをしているので、ニッキーは空の車椅子が大嫌い。だから、車椅子につけたロープに「触れる」という段階から始めた。出来たら、空の車椅子の上にご褒美を乗せる。食い意地の張ったニッキーに、食べ物で恐怖心を克服させる作戦だ。次にロープをくわえること、そして引っ張ること、とステップアップしていく。
 そしてニッキーは、いきなり理解した。まるで毎日やっていたみたいに、何メートル離れていても車椅子を持ってきてくれる。見ていた患者さん達が「えらいねぇ」なんて褒めるものだから、得意になって何度でも。
 この年になって、最近何故か、新しい仕事が増えたりしているニッキー。でも、新しいこと、新しい場所、初めて会う人が大好きな子だから、まだまだ楽しんでくれる。きっとこの子にとって、病院はとっても楽しい場所なんだろうな。相棒が恐怖の手術を受けたというのに…

■2003/06/10 (火) ニッキー入院する・2

 8日に入院し、9日に、私は手術を受けた。
 この1年半ほどで急に進んだ視力低下の一因は白内障で、いよいよ日常生活もままならない状態になったので、思い切って手術ということになったのだ。あまりに老人くさい病名に、私はとっても落ち込んだが、まあそれはここでは関係のない話だよね。
 手術の翌日に、ついにニッキーが病院にやって来た。二日ぶりの再会は、感動的(?)だった。
 ニッキーはまず例によって私のひざにアップして甘えた後、私の車椅子につけたロープをくわえて、ぐいぐい引っ張ってエレベーターに連れて行こうとしたのだ。さあ帰ろう! と。
 見ていた患者さんから、「あら、家に連れて帰るつもりなんだね」と笑われ、看護婦さんには「まだママは入院だからね」と止められたりして。

 病院では、実際にニッキーに介助してもらわなければならないことってほとんどない。時々目薬や箸箱を落としたら拾ってもらうくらいだろうか。だからという訳でもないけれど、患者さん達が「撫でてもいいですか?」と聞いてきたら、「どうぞ」と答えていた。
 入院する人の気持ちは自分が体験している。それにニッキーが一旦おなかを出してくつろいでしまっても、仕事をする気持ちに切り替えさせることは出来る。ここでみんなに撫でてもらったからといって、困ることはない。
 かくしてニッキーは、病棟のおもちゃ…じゃなくて癒し犬として、みんなに撫でられまくる日々を送ることになった。
 犬の性格にもよると思うけれど、ニッキーは沢山の人に撫でられてもちっともストレスに感じない。というか、ストレスになる前に、自分でダウンして、「もう構わないでね」と寝てしまうから、それなりにコントロールできているようだ。
 でも、あまりに構われすぎてニッキーが疲れる前に守ってやるのが相棒の役目。結局何度も「すみません、この子も疲れますから…」と止めなければならなかった。
「えっ、疲れてるの? しっぽ振ってるのに」と突っ込まれ、ちょっと困った。ニッキーったら、眠くても疲れていても、人にはいい顔をする。そういえば、ニッキーのハーネスにService Dogと書いてあるのを見て、「確かにサービス精神旺盛だねぇ」と言った人までいた。
 ああ、サービス過剰犬。私の退院まであんまり疲れずに病院に通ってね。


■2003/06/08 (日) 二ッキー入院する・1

 と言っても、具合が悪かったのは相棒の私だった。3年前に手術を受けた病院で、また手術を受けることに決まった。
 前回手術を受け、入院したのは、留学を終えて帰国してから2ヶ月しかたっていなかった時。アメリカで、どこにでも介助犬ニッキーを同伴できることに慣れてしまっていた私は、堂々と「介助犬を同伴させてください」と頼み、理解ある婦長さんはじめ、病棟の職員のみなさん、それに院長先生の許可を得ることに成功した。
 今思うとすごい!
 盲導犬ですら、入院には同伴できない病院も多いのが日本。盲導犬はいいけど介助犬は…という対応も多い。入院に介助犬が同伴したのは、日本では初めてだったそうだ。
 問題は大きく分けてみっつあると思う。ひとつは、病棟に犬が入ることの衛生面での問題。これは実際には、犬が健康で、ワクチン接種なども含めて適切に管理されている場合、不特定多数の人間(例えば見舞い客)が出入りするのと比べて、特に問題はないと言われ、一安心。ちなみに、私はニッキーを実家に預け、そこから「通う」ようにしたので、排泄を病院の敷地内でさせるとかはしなかったけれど、排泄物の処理についても、婦長さんから方法を提案していただいた。
 ふたつ目は、他の患者への配慮。犬が嫌いな人もいるし、「犬からばい菌が…」と誤解する人もいる。抜け毛や匂いは「完全に」カットできるものではないから、人によっては不快感があるかもしれない。これは、ナースのみなさんがきちんと説明してくださり、患者の方達にも大体理解してもらえた。同室になる方には、ナースから説明と共に「…そういう犬ですが、もしお嫌でしたら他のお部屋に変更出来ます」と確認してもらえた。
 みっつ目に「何故入院中に介助犬が必要なのか」ということ。完全看護の病院の中で、実際に「自助具として」介助犬がどうしても必要という場面はありえない。
 嬉しかったのは、「介助犬は他の自助具とは違う。パートナー、分身として、本来一緒にいるべき存在」「使用者にとっては不可欠で、作業の機会がなくても必要」と、向こうから言ってもらえたことだった。
 そんな訳で、再び入院に同伴したニッキー。
 ちょっと固い話になったけれど、某大学病院眼科病棟のみなさんに感謝いっぱいの私だった。ありがとう!


■2003/06/05 (木) 久しぶりに、小ネタの数々

 例によって、にっちゃんの「書くほどでもない」しょーもない話。

*好き? 嫌い?
 今まではあまり喜んで食べなかったりんご。ある日、まるのままのりんごを喜んでくわえて、自分のハウスに持っていった。黙々とかじり、芯まできれいに食べて、もっとくれ! と訴えた。でも、翌日もう1個りんごをあげたら、穴だけ開けて食べなかった。
 ニッキー、りんごは好き? 嫌い?

*寝場所
 最近、窓と棚と椅子にはさまれた半端な空間で寝るのが気に入っているニッキー、先日は、疲れていたので、その場所でぐるぐる回転してばたんと寝てしまった。カーテンが椅子と棚とニッキーのおしりに引っかかって、繭のようになった。しばらくしてカーテンを振りほどこうと必死になっていた。
 それでも、お気に入りの場所は変わらない。

*エネルギー
 だいぶ前だけど、とってもおとなしい犬を連れた方と知り合った。使役犬でもなんでもないけど、とにかくおとなしい。会場の照明が消えたら、全く動かなくなった。飼い主さんいわく、
「この子は太陽電池で動いてるの」
 私は思わず、
「ニッキーは…核エネルギーです」
 と答えてしまった。
 その会話を聞いていた人たちが、みんな納得してしまったのが口惜しい。以来、ニッキーの落ち着きがない時は、「ほら、核エネルギーが漏れてる!」とつっこまれてしまう。地球と飼い主に優しく、落ち着いた犬になって欲しい。

*季節が変わると
 涼しい時期、ニッキーは私の布団のすそにまるまって寝ていた。今は、私と平行に、長々と伸びて寝ている。シングルベッドに大型犬は辛い。しかも、猛烈に毛が抜ける時期は、ニッキーの綿毛が鼻に入って目覚めてしまう。
 ようやっと抜け毛が治まってきて油断したら、ある晩なにやら夢を見たニッキーがばたばたと足を動かし始め、危うく蹴落とされるところだった。怖い夢から目覚めたニッキーは、そのまま朝まで飼い主にしがみついていたので、私は全身寝違え状態になった。

*目測
 家の中のふすまを開けるのを教えてみた。外出先でドアを開けると車椅子が通る幅まで開けるのに、何故か家では、私の幅より細くしか開けてくれず、「通れるよね」とこっちを見る。
 飼い主がもっとスリムだと信じている愛犬を裏切るのも忍びなく、身体を横にして通ってしまった。…ダイエットしよう。

 字数が尽きてしまった。また次回…っていつだ?


■2003/06/01 (日) 絶句

 午後、晴れてきた。Tシャツ1枚で充分、という暑さになる。
 今日はちょっとした取材で人が来て、ニッキーの仕事を見てもらう。キャッシュカードを拾ったり、歩道の段差で車椅子を引き上げたり、コンビニで商品をかごに入れたり、お金の受け渡しをしたり。家では電気をつけたり、冷蔵庫から飲み物を持ってきたり、私が立ち上がるのを補助したり。
「何をしてくれるとかより、犬がそんなに気持ちを分かってくれるのが羨ましいなぁ。何をして欲しいかとか、何をすればご主人が助かるかとか、ニッキーは分かるんだよね」
 そんな風に言ってもらえてほっとする。介助犬にあれが出来るこれが出来ると、道具としての性能を重視する人もいるけど、道具ならそのうち犬より優秀なものが出来るに決まっている。気持ちが通じるからこその安心感とか、自分の身体のような微妙な仕事ぶりとか、それを見てもらえるとちょっと嬉しい。といっても、ペットがいると心が和む、って言うのとも違うけど。
 今日のニッキー、暑い中でよく頑張って仕事をしてくれたし、ちゃんと大事なことを伝えてくれたね。でも…
 取材の人が帰ったら、「もっと何かすることないの?」と目で聞いてきたので、別に何も用はなかったけど、「ごろんして」と言ってみた。するとニッキー、勢いよく転がろうとして、自分から柱に頭をぶっつけてしまった!
 想像してください、でかい犬が横たわって、突然柱に頭をぶつけていくのを。それも、痛かったのかぶつけた後で、しばらくおなかを上に向けたまま呆然と、口は半開きになってたりして。
 結局ニッキーって、お笑い系の犬なのね…笑うに笑えず、絶句。


(C)Yuki+Nicholas, http://blackdog.whitesnow.jp/