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くろいぬ日記

黒犬ニッキーと相棒の日々、時々猫も登場?

2004年5月の日記

■2004/05/30 (日) 迷う一瞬

 テンションは高いが老犬(のはず)なニッキーのために、最近は力仕事はなるべく控えさせている。ニッキーがいちばん好きな仕事はハーネスで車椅子を引くこと、2番目に好きな仕事はエレベーターのボタン押しだけれど、関節への負担なんかを考えて、そのふたつも本犬が「やる!」と意思表示してもさせないことが多くなった。
 そして昨日、買い物に出かけた時。いつもは車道を歩いてしまう道で、結構車が来たので、歩道を歩いた。並んだ家の前にはそれぞれ車のための傾斜があって、車椅子では歩きにくい。歩道が狭ければそれだけ傾斜は急になる。左側に流れた傾斜は、左手の弱い私には辛い。
 ニッキーに力仕事をさせないために、実は日々腕を鍛えるように意識しているから、最近は左手も大分強くなったけれど、それでも傾斜を通過しようとしたら、車椅子が一気に左に向いて、車道に出そうになってしまった。
 ニッキーは、車椅子を引く「フォワード」の指示を待って、嬉しそうにしっぽを降り始める。手伝ってもらうかどうか、一瞬迷った。でも結局、左(犬の側)に流れた傾斜なら角度にもよるけど、平らな場所より犬の負担が少ないし、手伝ってもらわないと車道を歩くしかないので、ハーネスを握る。
 ニッキーは楽々と傾斜を乗り越えさせてくれた。いくつもある傾斜の度に、しっぽを振って自信ありげに指示を待つ、頼もしい相棒だった。「グッド! ありがとうね」褒められて誇らしげなニッキー。

 それから、今日のこと。暑くて犬も飼い主もだらんとしていたけれど、私のおなかが痛くなってきた。トイレに行くには、ニッキーにどいてもらわなくてはいけない。またまた一瞬悩んだ。動くたびに口で息をしながら、思いっきり暑がるニッキーだから、どいてもらうのもちょっとかわいそう。
 一度は私が、トイレに行くのを我慢した。でもすぐに、ぎゅるるる…とおなかが鳴り、迷っているゆとりも吹っ飛んで、トイレに駆け込んだ。ニッキーは起き上がったついでに、トイレについてきてくれて、トイレの前の割と涼しい場所でどたっと寝てしまった。
 飼い主思いのニッキー。ありがとう。でも、君に甘えちゃいけないよね。多分ずっと、ニッキーの引退まではほぼ毎日、こんなふうに迷うことになるんだろう。私もニッキーを思いやる、それが当たり前だから。


■2004/05/27 (木) 夜の散歩

 ベッドの上が大好きだったニッキーが、今日は壁にくっついたり、畳にのびたりしている。これから梅雨だというのに、暑さに弱い黒ラブには早くも夏到来。狭いアパートの室内で、どたーっと手足を全部投げ出して寝ている大型犬は、とってもでかく見える。
 そんなニッキーのために、散歩は日が沈んでずいぶん経ってから出かけた。排泄を済ませ、ハーネスを着けてコンビニに行き、それからゆっくり寄り道しながら帰るコース。大きな道に沿って、お店の明かりがある歩道を歩いた。歩道の段差はニッキーも手伝ってくれる。
 交差点を渡って、向かい側の歩道に上がろうとしたら、半端な場所でニッキーが止まって、こっちを見上げた。よく見るとビール瓶か何か、色のついたガラスの破片がたくさん落ちている。歩行者用信号は赤になってしまったけれど、このまま進んだら踏んでしまうから、引き返して反対側の歩道に戻る。
 気づかずに踏んでいたら、ニッキーは怪我、私は車椅子がパンクという最悪の事態になるところだった。ニッキー、多分君なりに教えようとしてくれたんだよね、ありがとう。ま、自分が怪我をしたくないからだろうけど。
 帰りは別の道で帰ることにした。万が一でも、うんと小さな破片が離れた場所まで飛んでいたら…と思ったら、とても怖くてニッキーを歩かせられない。夜の散歩には、黄色い反射テープと赤いぴかぴかのついた、安全首輪を一応着けたりもする。最近買った抜け毛防止の全身コートも、明るい色で反射テープ付きだから、結構いいかも。それにプラスして、大分前に買った犬用の靴(ちょっと改良あり)も、夜の散歩には必要かな。
 割ったガラスを放置した人に腹を立てるより、とにかく私がしなければならないのは、大事なニッキーを守ること。早速夜の散歩用具を確認する私だった。
 本当は、早起きして、明るくて涼しい時間に散歩に行くのがいちばん。ニッキー、明日の朝、起こしてくれないかなぁ…無理だよね。。。

■2004/05/26 (水) 怖いもの

 昨夜の散歩から帰って、玄関でニッキーの足を拭き、ついでに全身を拭いた。さっぱりして水を飲んでいるニッキーの後ろの壁に、何かが張り付いている。左右対称のシルエットは、紛れもなく私の大嫌いなアレである。よりにもよって毒々しい濃い紫色の、蛾(この文字だけでも嫌なので、以下「アレ」と表記させてね)だった。ドアを開けっ放しでニッキーを拭いていた時に、外から入り込んだんだろう。
 虫は大嫌い! 嫌いを通り越して怖い! でもニッキーはご飯を待っているので、目をそらしながらドッグフードを用意した。楽しそうに食べるニッキーの後ろに、相変わらず毒々しいアレはいる。動かないで欲しい。後で私が見ていない時にそっと外に出て行って欲しい。
 それなのに、食べ終わったニッキーは満足げに私を見てしっぽを振り、そのしっぽに驚いたアレは、ばたばた飛び立った。毒々しい紫の羽の裏側は、意外にもシックな薄茶色。昨年の手術以来視力が出て、そんなものがしっかり見えてしまう自分の目を呪いたい。
「ぎゃあああ!!!」ソプラノの悲鳴をあげ、脳性まひの症状で両手両足が突っ張って妙なポーズをとる私。そんな飼い主にびびりまくるニッキー。とにかくニッキーと奥の部屋に逃げ込み、ふすまを閉めた。
 ふすまの隙間から覗くと、アレがたたみの上を歩いている。何度も飛ぼうとして失敗するアレ。多分蚊取り器のせいで、弱っているのだ。慌てて蚊取り器の電源を抜く。大嫌いな虫だけど、死なれるよりは自力で外に帰って欲しい。
『風の谷のナウシカ』の巨大昆虫を「森へお帰り」って説得するシーンを思い出す。私もアレに向かって「外へお帰り」と念を送った。何度失敗しても飛ぼうとするアレ。「がんばれ! 飛べ! 飛んで外に行って!」何故か大嫌いなのに応援する。
 トイレにもお風呂にもアレのいる場所を通って行かねばならず、私が悲鳴をあげるとニッキーがびびるので、一生懸命我慢したけど、やっぱり何度も悲鳴を上げてしまった。
 今朝がた恐る恐る見てみると、キッチンの窓のところに、アレがいる。勇気を出して、その窓を少し開け、待つこと10分。ついにアレは、外へと飛んでいった。
「やったよ、ニッキー!」嬉しくなって呼ぶと、ニッキーも大喜び。職業柄、私の声や表情を気にするニッキー、きっと悲鳴を上げる私を心配してくれていたんだろう。それとも、叫びまくる飼い主が怖かったかな?


■2004/05/25 (火) しゃっくり

 隣の部屋の観音開きの押入れが開いていた。壁伝いに歩いて閉めに行くだけでも大変だし、ニッキーに頼むことにする。この押入れはしょっちゅう勝手に開くけど、ニッキーに閉めに行ってもらうのはこれが初めて。
「ニッキー、ゴーアヘッド」で隣の部屋へ行ったニッキー、何をしていいのかきょろきょろし始める。ニッキーが押入れの方を見た時に、「タッチ・ザ・ドア」前足でドアを押しなさい、と指示を出す。でもニッキーは、ドアと聞いて彼なりに判断し、同じ方向にあるトイレのドアを前足で押した。それ最初から閉まってるよ、ニッキー。
「違う」と声をかけてもう一度。次に押入れに近づいた時、大げさに「イエス!」と励ましたら、ニッキーは、もうほめられた(仕事が成功した)とまた勝手に判断して、へらへらしっぽを振り始めた。
 声のトーンとタイミングで、ニッキーは判断する。失敗するってことは、私の伝え方が下手なのだ。もう一度指示を出して、無事押入れは閉まった。

 そしてその夜。私は突然しゃっくりが始まって、止まらない。ニッキーを呼び、奥のデスクの上にあるペットボトルを取りに行ってもらう。デスクの上から物を持ってくるのも、ボトルを探すのも、慣れた仕事だから問題ない…と思っていたら。
 鼻を使ってペットボトルのありかを探したニッキーが、デスクに前足をかけようとした瞬間、しゃっくりが。「ひっ!」という私の声を聞いたニッキーは、自分が何か間違えていると思って、動きを止めてしまった。いつもニッキーがやりすぎそうな時、例えば繊細な薄いレンズを前足でがしっと引き寄せようとした時なんかに、私は悲鳴(?)をあげ、ニッキーはその声で止まる。確かにそんな声としゃっくりは、似ているかも。
「あ、気にしないで」と言うと、ニッキーはもう一度立ち上がってボトルを取ろうとしたけれど、またもしゃっくり。ニッキーは慌ててボトルをくわえかけていたのをやめ、少し考えて横にあった携帯電話を取ろうとし、「違う」と言われて困ってしまった。
 最後には何とかニッキーがボトルを持ってきてくれて、しゃっくりも止まったけれど、その後でおかしくて笑ってしまった。ニッキーには、私の声が全部意味を持っているみたいだ。
 もしかしてニッキーがわざと眼鏡を噛むふりでもして、私を驚かせた方が、しゃっくりは早く止まったかも。そうしないでくれて本当によかった。


■2004/05/24 (月) 掃除機

 ツーソンで使っていた掃除機が壊れて以来、実家から古い掃除機を持ってきて使っていた。でもその掃除機まで壊れて、今は仕方なく小型の掃除機を使っている。
 結構きちんとごみは吸ってくれるようだけど、何故かカーペットについた犬の抜け毛には弱い、犬の抜け毛がごみの大半を占める我が家には向いていない掃除機。でもまぁ、買ってしまったんだし、犬の抜け毛が飛んでいても掃除機のせいにできるのはありがたいしで使っている。
 そういう掃除機を使っているからか、今年の抜け毛シーズンはすごく大変に感じる。今日も部屋中に掃除機をかけ、カーペットには2度掃除機をかけたその後、ハウス(といってもマット)から戻ってきたニッキーがぶるぶるすると、またまた黒い毛が飛んだ。
 床に座って少しずつ身体を移動させながらでないと掃除機が使えない私にとって、結構掃除は大仕事だ。せっかくその大仕事が終わったというのに、ニッキーったら、新たな抜け毛を…。ぶるぶるの次はかいかいまでして、さらに抜け毛を生産する。
 その時私の目に、掃除機に付属している長いホースとブラシになった吸い込み口が。誰でも思いつくことだけれど、ニッキーに掃除機をかけてみることにした。犬によってはストレスになる子もいるだろうけれど、以前にも何度か試したことはあるから、ニッキーの反応は判っている。
 嫌そうな顔ではあるけれど、仕方なさそうに我慢しているニッキー。今日は念入りに、よく抜け毛が溜まっている後ろ足の辺りやしっぽの付け根にも掃除機をかけた。
 ああ、それなのに。何故か掃除機から解放されてぶるぶるするニッキーから、また毛が舞うのだった。恐るべし、抜け毛職人。

■2004/05/23 (日) ケンジ飼い猫化計画

 土日は携帯電話の料金が安いので、無意味な電話をかけてくる我が母。いくら安いと言ってもかけなきゃ無料なんだから、わざわざかけなくてもいいのに…
 今日も母は、自宅にいる私の携帯に電話をかけてきた。ああ、また土日コールだ、と思い、無愛想に「はいはい、何?」と出てしまう。
「今日はケンジを撫でられたよ!」と母は嬉しそうに言った。実家の猫達に関する報告なら、いつでもありがたいので、私は急に笑顔になり、声にも愛想がプラスされた。それも、ケンジを撫でたなんて、すごい報告!
 実家に通ってくる野良猫、ケンジ(以前いたケンタに似ているので命名)は、人間を怖がる子。朝晩きちんと「出勤」して、大声でおねだりしてはちょび達の残り物をもらうくせに、人間が近づくと「しゃー!」と威嚇する。
 最近は新顔の野良猫、ブラッキーと一緒にやってくるようになって、仲間がいるからちょっと安心したように見えていたけれど、あのケンジが人間に撫でられても平気になったなんて、感無量だ。3回までは撫でられるようになったそうだ。4回撫でると、背中をぷるぷる震わせて、逃げる準備に入るらしい。
 母は「ケンジを飼い猫化して、ちゃんと看取る」と宣言した。まだ若い猫に「看取る」というのもなんだが、それもまた動物飼いの実感だ。実家周辺は今でも、野良猫がのんびり暮らせる環境ではあるけれど、病気や事故やストレスやいろいろなトラブル…野良猫生活はいろんな意味で危険である。ケンジ、早く飼い猫になって、安心して暮らしてね。
 次の目標は、4回撫でること。頑張れケンジ、そして頑張れお母さん。ちなみにその話をしている間、撫でられるのが何より好きなニッキーさんは、自分で人の手に身体をこすりつけていた。


■2004/05/21 (金) 行きたいのに

 また散歩が深夜になってしまった。深夜まで待っていてくれたニッキーは、私が散歩の準備を始めると、例によってぐるぐる左回りをして喜びを表した。
 深夜でも一応、携帯電話とお財布と鍵は持って出るのに、今日に限って、いつもの上着のポケットに携帯電話がなかった。私は玄関に座って靴を履いてしまったので、ニッキーに取りに行ってもらう。
 ニッキーは「戻って」と言われて急に不安げ。置いていかれると思ったらしい。「ゲット・ザ・セル」の聞き慣れたコマンドを聞いて安心したように、奥の部屋から携帯電話を探して持ってきてくれた。グッドボーイ。
 ようやく出かけようと思ったら、ドアを閉めてから車椅子の横の半端な場所に鍵を落としてしまった。これもニッキーに拾ってもらう。一度受け取りそこなって、もう一度。早く散歩に行きたいニッキー、いつもと違って超きびきびしていた。
 決められた場所で排泄させて始末をして、ケープを着ける。帰りにコンビニに寄るつもりだったから介助犬の表示も必要だし、このケープは反射テープが付いているので、夜の安全にちょっとは役立つ。ケープを着けられるとニッキーは、デート(長めの散歩)の予感でしっぽをぶんぶん振った。
 今度こそ出発。でもその時、ニッキーの背中のカードがぽろっと落ちた。プラスティックのカバーが割れてしまっている。行く気満々のニッキーには申し訳ないけれど、一旦戻って、予備のカードをケープに着けるまで散歩を待ってもらう。
 なかなか散歩に行けないニッキーさん、いつもとは違う意味で落ち着きをなくしてきょろきょろしながら、それでも私の言うとおり部屋に戻って、じっと待っていた。行く気満々から、やや諦めモードに表情が変わっている。
 やっと準備が整って出発しようとしたら、雨が降り始めた。深夜だし排泄も済んでいるし、このまま中止しちゃおうかな、と一瞬思ったけれど、ニッキーを喜ばせてあげたい。霧雨程度だからそのまま出かけた。
 近所を歩いたり、コンビニに寄ったり、誰もいない駐車場で少し遊んだりして、1時間ほどで帰宅。空が明るくなっていた。
 ニッキーは何度も、散歩中止? と思っては気をもんだだろうな。それでもただの近所の散歩でこんなに嬉しそうな顔をして。この子のこの性格に助けられている駄目な飼い主、ちょっと反省。
 ごめんねニッキー。君に諦めた顔をさせないようにしなくちゃね。


■2004/05/19 (水) 進歩?

 およそ食べられるものなら何でも大好きなニッキー。やっぱりラブラドールだねぇ、としみじみ感じる食欲である。
 フィラリアの予防薬だって、お菓子みたいなタイプなら大喜びして食べてしまう。薬欲しさに「シット、バック、ダウン、アップ、ごろん、ハーイ、スピーク」と連続したコマンドに、きびきび従ってくれる。ああ情けない…。
 去年から大き目の白い錠剤のフィラリア予防薬にしている。一応チーズに包んで食べさせる。不器用な私がやることだから、チーズと薬はすぐに離れてしまうけれど、チーズを飲み込んだ後から薬を単独で飲み込んでしまう、おおらかなニッキーさん。
 おいしいものに混ぜても、上手に薬だけを口の端からぽろんと出す、という犬の飼い主にはうらやましがられるだろうな。でも私は、薬だけ上手に拒否する犬を、ちょっと尊敬してしまうのだ。
 昨日、動物病院で今までの市販のとは違うサプリメントを勧められて、早速今朝から使ってみることにした。かなり大き目のカプセルだ。ちくわを切ってその穴に入れてみたら、計ったようにぴったりで嬉しくなった。一瞬「飲ませやすいようにちくわにサイズを合わせてるんだ…」と感動したけど、アメリカ製の薬だし、そんなことはないよね。
 続いて夜の食事の時にも1錠。今度はちくわがなかったので、そのままフードに入れた。いつもどおり、吸い込んで食べるニッキー、食欲良好。でも、食べ終わった食器の中には薬だけが残されていた。カプセルが溶けかかって、白い粉薬があふれている。
「ニッキー、やったね、すごいよ!」と思わず喜んでしまった。理由も分からず、私が喜んでいるのでニッキーもとっても得意げである。
 形が崩れてしまったカプセルでも、口の奥に入れられると結局飲み込んでしまう素直なニッキーだけれど、8歳にしてようやく、食べ物に混ぜられた薬を上手に残すことに成功。こんなことにも喜ぶ、ある意味幸せな犬と飼い主だった。


■2004/05/18 (火) 動物病院な日

 元麻薬探知犬候補の経歴故に、ニッキーさんは若い頃から歯の汚い犬だった。
 訓練用ダミーだけに意欲を持つように、ボールもタグトイもデンタルコットンも骨も、与えられていなかったのだ。2歳でうちの子になった時、すでに口臭と歯石がひどかった。いろいろ噛ませたり、布で拭いたりして、少しはましになったけれど、やっぱり歯の汚い犬だった。
 何度か獣医さんに勧められても、犬の歯石取りは全身麻酔なので、抵抗があって実行できなかったが、ついに今回、半年に一度の健康チェックの時に歯石取りをお願いすることにした。今しなければ後でもっと大変なことになると思って。
 時々お世話になる東京の某有名動物病院の、あの女医先生は、意を決して歯石取りを頼んだ私に、何も聞かれる前にこう言った。
「全身麻酔ですから、普通はお泊りだけれど、ニッキーちゃんは日帰りね」―犬も飼い主も分離不安気味な私たちをよく知っている先生の、ありがたい申し出。それから、心配性な私のために、どういう麻酔薬を使うかとかの説明もしてくれた。
 そして。朝病院に預けたニッキーは、その夜ぴかぴかの白い歯で帰ってきて、口臭のないさわやかなべろべろをしてくれた。やっぱり嬉しい。
 でも、今日いちばん驚いたのは、なんと、先日カナダで入れたばかりだというのに、っていうか、普通一生にひとつで充分なのに、新たにマイクロチップが入れられていたこと。
 実はニッキー、先日法律上の「認定介助犬」となった。認定試験を受ける時に、「合格したら無料でマイクロチップを入れます」と確かに聞いていたけれど、まさかふたつ目のチップが入るとは思わなかった…びっくり。カナダで入れたチップが読めない時もちゃんと読めるように、日本で一般的なタイプのチップを入れた、ということだった。
 マイクロチップをふたつ、それもふたつとも無料で(カナダで入れてもらったのも、IAADPのサービスだった)入れてもらった犬なんて、ニッキーぐらいかも。先生は、「そうよ、特別な子よ!」とチップの入ったニッキーの肩の辺りをぽんぽんと叩いた。
 どの犬も猫も、飼い主にとって特別な子だと、獣医さんは日々感じているのかもしれない。ちょっと心配な股関節のサプリメントを貰って、例によってニッキーの元気と長生きを祈る。だって私には、ニッキーが特別な子だから。

■2004/05/15 (土) 買い物と再会

 実家滞在中、超珍しく、家族で出かけることになった。猫班はさすがにお留守番だけれど、人間班3名と犬1名。別に大したお出かけではない。行き先は、某犬グッズのお店と、某激安スーパーと、某お宅で、すべて「車で行けば近所」という範囲だ。
 大型犬専門のお店で、ニッキーの高価なコートを買う。いろいろなところに出かけるニッキーは、抜け毛防止のために今までも沢山のTシャツを持っていたけれど、もっと完璧な抜け毛予防や、身体の汚れの予防が必要な時のために、思い切ってコートを買うことに決めた。何度も言うけど本当に高かった、私にとっては。で、父上に無理やりお支払いいただいてしまった。さすがに犬専用のものは、ニッキーも動きやすそう。
 それから、父の友人宅へ。ここの飼い犬ロンちゃんは、訳あって我が家で数ヶ月を過ごした子なので、元気にしている姿を見に行った。和犬気質なロンは、子犬時代家族として過ごした私達を今でもちゃんと覚えていて、犬流の礼儀正しい挨拶をしてくれた。私はもう何年も会っていなかったのに…覚えていてくれてありがとう、ロンちゃん。
 ベスト体重14キロのはずのロンちゃんは、何故かニッキーと大差ないサイズになっていた。立派な黒マグロ(しかも全身大トロ)状態だ。それはちょっと心配なのだけれど、飼い主さんに可愛がられている様子が嬉しかった。大トロになっちゃったのも、しあわせ太りに思えてくる。
 家の近所だけのささやかなお出かけで、すごく楽しい気分になれた一日だった。


■2004/05/13 (木) ナナちゃん

 眼科の検診の日、ニッキーももちろん一緒に病院へ。エレベーターから待合室へ向かっていたら、「おお、お仲間が来たよ」と声がした。何度かこの病院で会っている、盲導犬のナナちゃんとそのお父さん(ユーザーさん)だ。
 ナナちゃん、今年12歳になる大ベテラン。ほぼ10年働いてきたことになる。もともとゆったりした犬だったのだろうけれど、いまや置物並みに落ち着いている。時々お父さんに遅れてしまうのは、それだけ足腰が弱っているんだろうか、ちょっと心配。
 そういう年齢のせいもあって、会うたびに話題は、どうしてもナナちゃんの引退のことになる。以前「もうそろそろ…」と言っていたお父さん、今回は「頑張っても今年の夏までだねぇ」と具体的な時期を言った。
 ニッキーは介助犬になる前から私の犬だから、看取ってやることも出来る。でもナナちゃんは、盲導犬の仕事を終えたら、お父さんのところにはいられない。きっと私には解らない想いがあるんだろう。
 犬への愛着と愛情。愛着があるからそばに置いておきたいし、愛情があるから、年を取った犬に楽な生活をさせてやりたい。最期まで共に暮らせば「可哀そう」と言われ、手放せば「残酷だ」と言われるのがユーザーだけれど。
 ナナちゃんは、運動量が減ったのか、ベスト体重を大分オーバーし、ピンクのコートがぱっつんぱっつんで、見た目には笑える。もしかしたらもう会えないかもしれない…と思いながら、ニッキーとナナちゃんのツーショット写真を撮った。
「黒ちゃんは若いから、動きが俊敏だ」とナナちゃんのお父さん。8歳のニッキーが、確かに若く見える。3年ちょっとしか違わないことが信じられないくらい、2頭の動作は違っていた。たった3年が老犬にとってどういう時間かを感じさせる。
「さあ帰ろう!」という言葉には嬉しそうにさっと立ち上がるナナちゃん。引退する日まで、彼女の働く犬としてのプライドが満たされていたらいいな、と思う。そして、引退してもしあわせな日々が長く続けばいいな、とも。
 それにしても、私とニッキーを見かけると、患者さんも看護婦さんも「今日はナナちゃんも来ているよ!」と教えてくれるのがおかしかった。なんとなく、白黒2頭の犬が揃うとみんなにこにこしてして、和んでしまう。


■2004/05/08 (土) 今さらなこと

 昨夜徹夜で文章を書き、そのままニッキーと散歩に行った。少し歩いて、排泄を済ませたら、もう夜が明けてきた。別に仕事をさせる必要はないから、ハーネスは着けていない。最近愛用している、ちょっと便利な革リードを車椅子に固定して歩いた。
 もともとニッキーは、こちらが黙っていると理想的なヒールよりも前に出て歩く。同居を始めたばかりの頃、私にはニッキーが少し前を歩いてくれる方が安心だった(その位置でないと、私の視野にニッキーが入らないから)ので、そういう癖をつけてしまった。だからまぁ、それは許容しているけれど、今朝は前に出すぎている。慣れた場所なのにきょろきょろして、周りの匂いに気をとられて。
 ニッキー、調子に乗りすぎ! チェーンカラーを着けて、少しオビディエンスをしてみた。でも効果はいまいち。気持ちは上の空のまま、コマンドに機械的に従っているだけだった。出かける予定もあるし、久しぶりに学生時代の友人に会うことにもなっていたのに…ニッキーが失敗しなければいいけど。
 心配していたけれど意外にも、ニッキーはハーネスを着けた途端、すとんと落ち着いた。もちろん仕事もきちんとこなしてくれる。
 知らない人が見れば「当たり前でしょ、ハーネスを着けたら仕事なんでしょ」と言うだろうけれど、盲導犬でなく介助犬、しかもアメリカ育ちのニッキーは、ハーネスの有無で気分を切り替えるような教え方はしていない。
 日本に帰ってきて4年。ニッキーは、ハーネスを着けている時の私の緊張感や周りの空気を読み取って、いつの間にかハーネスの意味を自分なりに理解していたようだった。今さらながらちょっと感動してしまった。
 そしてふと、先日話したある獣医さんの言葉がよぎる。「ニッキーちゃんは、仕事をしている時は責任を感じているから、疲れていたりどこかが痛かったりしても、しっかり動きます。だから、これから年を取ったら、家にいる時の動作をよく観察してあげてね」と。
 働く犬ニッキーの幸せは、やっぱり24時間一緒にいるパートナーの私にかかってくる。そんな責任を感じた。
 ニッキー、駄目飼い主だけど、頑張るよ。君がハーネスに責任を感じてくれるように、私も一生懸命、飼い主の責任を果たすからね。


■2004/05/06 (木) たんぽぽ

 先月、ニッキーがとても頑張ってくれたことがあった。そしてその翌日、部屋の前にたんぽぽが咲いていた。「ほら、にっちゃんが頑張ったから、たんぽぽ咲いたよ」―根拠のない非科学的なことを言って喜ぶ私。
 雑草の花が、実は好きだ。部屋の前の雑草を抜かない言い訳も兼ねて、ああいう小さい小さい花が、予期しない時に咲いてくれると、何だか嬉しくなる。切り花はかわいそうだし、鉢植えは世話が下手で枯らしてしまうし、第一花を飾っても似合わない日々だから、我が家に花はない。時々、窓のところや部屋のドアの前に咲く雑草の花が、唯一の花?
 今回のたんぽぽは、特に私たちにとってちょっと嬉しい思い出と重なることになった訳で、何だか愛着があり、毎日見ていた。最初ひとりだったたんぽぽは、6本に増えて、最初に咲いたたんぽぽが昨日、ようやく綿毛を開いた。雨の日だから、しっかり綿毛を開けないけれど、「頑張ったね」とたんぽぽに語りかけたい気分。
 ところが。今日アパートのメンテナンスの人がやって来て、私の大事なたんぽぽも、他の雑草も、みんな引っこ抜いてしまったのだ。まさか、「それはうちのたんぽぽ…」と言うわけにもいかず、仕方なく見ていた。
 毎日見ていると、暖かい日には花びらをしっかり開き、寒ければきゅっと閉じて我慢し、いつのまにか背伸びをして種を飛ばす準備…というたんぽぽが、いとおしく思えてくる。ニッキーにも毎朝、たんぽぽを避けて排泄するように、「もっとこっち!」とか「そこは駄目!」なんて声をかけていた。
 まあ、雑草を引っこ抜くのは当然の手入れだと思うけれど、それでもどこか淋しい気がする私だった。せめて、引っこ抜かれる前に、せっかく着けた種がちゃんと飛んでいればいいなぁと思う。来年の春、また会えるように。


■2004/05/04 (火) 笑ってごめんね

 ここで何度も書いている、ニッキーの器用な口と不器用な前足。今日もまた、リモコンを持ってきてもらおうと頼んだら、ニッキーは前足でリモコンをくわえやすい位置に引き寄せようとした。
 それでも別に問題はなかったが一応、私はそんなニッキーに「そーっとね!」と声をかけた。思いっきり出しかけた左の前足を宙に浮かせて、一瞬止まったニッキー。それから、何事もなかったように前足を下ろして、口だけでリモコンを取ろうとしてくれた。
 そーっとね! は、別に訓練で教えたコマンドではない。私の側で暮らしているニッキーが自然に覚えた言葉だと思う。いつ頃覚えたのかな。教えていないのに私の言葉を理解してくれると、それはどんな犬でも(猫でも)ある普通のことだけれど、やっぱり嬉しい。当たり前にきちんと、お互いの相棒として時間を重ねている証拠だから。
 でも。今度は口でリモコンを取ろうとして、ニッキーは止まってしまったのだ。リモコンはニッキーの前に、縦の向きになっている。だからニッキーは、顔か身体の向きを横にしてくわえるしかなくて、首を右に曲げるか左に曲げるかで、何故か迷ってしまったらしい。
 リモコンに向かって口を開けたまま固まるニッキー。ほんの一瞬のこの姿があまりにもおかしくて、吹きだしてしまった。まるで、出しかけた手を引っ込めるタイミングがない人みたいに、くわえようと開けた口をそのままにしている犬…。
 ごめんね、ニッキー。せっかく仕事をしているのに笑っちゃって。
 いつもは、私のために仕事をしてくれるんだし、褒められると思って頑張っているんだから…と思って、仕事中のニッキーがどんなにおかしなことをしても、笑わないようにしているのに、今日は油断したかも。


■2004/05/01 (土) 夢見るニッキー

 久々に眼圧が上がって、目の痛みで、というか頭半分の痛みで、眠れぬ夜を過ごしてしまった。寝返りを打っても別に痛みは治まらないけれど、無意味に何度も寝返りを打つ。
 さらにこれまた無意味にベッドの上に起き上がってみたりした。すると、ベッドのすぐ側で長々と伸びて寝ていたニッキーのしっぽが、ぱたぱたと、正確にはばしばしと音を立てた。相棒が目を覚ましたのが嬉しいんだろうな、なんて可愛いニッキー。「ありがとね、にっちゃん大好きだよ♪」と、つい言ってしまった。
 でも。何故かニッキーは「がるるる!」なんて言うのだ。もちろん小心者なニッキーが飼い主に向かって唸るなんてありえない。寝言だった。何のことはない、ニッキーはさっきから熟睡中。何かの夢を見てしっぽを振っていただけだった。てっきり私にしっぽを振ってくれたのかと思ったのに…。「大好きだよ♪」の赤面発言が悔やまれる。誰も聞いてなかったからいいけど、ちょっと悔しい気分。
 よく寝言を言うニッキーさんだけれど、今回は特に長い夢を見ていたらしい。走るリズムで足が動き始めたら、それがずいぶん長い間止まらなかった。どんな広い場所で走る夢を見ていたんだろう。それも「ひゃう〜…がるるる」なんて声を出したり、しっぽを振ったり、楽しそうに。
 少し目の痛みを忘れて、愛犬の夢を想像し、何だかひとりで笑ってしまった。そしていつものことだけれど、やっぱり思う。ニッキーに、しあわせな時間を出来るだけ沢山過ごさせてあげようと。


(C)Yuki+Nicholas, http://blackdog.whitesnow.jp/