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くろいぬ日記

黒犬ニッキーと相棒の日々、時々猫も登場?

2004年6月の日記

■2004/06/29 (火) ちっちゃいからちーちゃん

 実家に帰るのは、いつも病院に行く時や体調のよくない時。でも今回はちょっと、楽しみがあった。実家の猫軍団4匹通い猫2匹に加えて、迷子の子猫を保護したので、ただいま実家には、久しぶりに遊びざかりのちびさんがいるのだ。
 リズ達姉妹を保護した時よりちょっぴり大きくなっていたものの、そりゃもうかわいい。かわいすぎる。去年亡くなった茶々丸に似た、茶トラの男の子。しっぽは長い。一応ご縁があればもらわれる子かもしれないから、我が家では単純な仮の名前しかつけなかった。ちっちゃいからちーちゃん。どうせすぐ大きくなるのにね。
 早速ニッキーと対面する。猫が大好きで絶対にいじめないニッキーだから、安心して近づけてみた。でも、あまりのでかさにびびって逃げるちーちゃん。ニッキーは一生懸命遊ぼうポーズやら鼻声やらでちーちゃんをなだめるけれど、猫だから犬語のボディランゲージは通じない。
 その時活躍してくれたのが、リズだった。ニッキーに育てられ、自分も縞模様のラブラドールだと思っているらしいリズは、ちーちゃんの前でニッキーにすりすりして見せ、ちーちゃんの警戒心を一気にほぐしてしまう。
 犬語と猫語の通訳の出来るリズって、結構えらいと思う。軽く感動してしまった。種の違う生き物が、それぞれに「安心」出来るって、ああ、平和だなぁ。人間の世界と見比べたら、恥ずかしくなるくらいに。
 リズ先生の教育の結果、出会いから3日目の今日は、ニッキーの前でもしっぽを立てて歩き、鼻をつき合わせられるようになったちーちゃん。社会化するスピードの速さに、またまた軽く感動してしまった。
 ちーちゃんには、人も犬も猫も信頼した、平和なおとな猫に育って欲しい。リズがちーちゃんにしたように、誰かを平和な気持ちにさせる子になってくれたらいいと思う。そうだ、もしもらわれなかったら、訪問活動に参加してみようか…そんな夢を見るお気楽な私だった。


■2004/06/26 (土) もっと大事なもの

 最近ニッキーとのデートを後回しにして、パソコンに向かっていたり、具合が悪くて横になっていたりすることが多い。せっかく出かけても、ごくごく近くで用事を済ませてさっさと帰宅してしまう。
 不調なパソコンをだましだまし、どうしても書かなければならないものがある私は、ついニッキーを放っておくけれど、ふっと私の緊張が途切れると、ニッキーが背中にじっと視線を注いでくる。無言の訴え。
 パソコンを終了して、ニッキーを連れ出してやろうと、少しはましなジーンズに履き替える。ニッキーは嬉しそうに寄ってくるから、着替えの邪魔になって仕方がない。「ほら、散歩に行くから、ちょっと待ってなさい!」やや叱り調子になってハウスに追いやった。
 ゆっくりな身支度が終わって「さあ、いいよ。行こうね」と声をかけた。するとニッキーは、いつもならドアの前に行くのに、着替え終わって立ち上がろうとしている私のところに駆け寄ってきた。お手をしながら顔を私のシャツにこすりつけ、身体を押し付けてくるニッキー。「うぐぐぐーぅ」と甘えた声を出して。
 ああ、そうか。この時やっと気づいた駄目飼い主の私である。ニッキーは、散歩に行きたい以前に、とにかく私にかまって欲しかったのだ。私をひとり占めして、お手をしたり舐めたりして思う存分甘え、撫でられたり声をかけられたりしたかったのだ。でも、忙しそうだったり、目が痛そうだったりする私に気を遣って、ずっと「甘えてもいい?」って聞いていた。
 散歩よりご飯より、仕事や訓練や褒め言葉より、ニッキーにとってもっと大事なものがある。日常の何気ない言葉や仕草で、愛されていることや、お互いに必要としあう特別な絆を感じていないと、どことなく落ち着かないのかも。
 テレビもパソコンも切った部屋で、しばらくニッキーと一緒に過ごした。何も特別なことはしなかったけれど、散歩の前に、いちばん大事なものをふたりで充電。


■2004/06/25 (金) すっきり!

 降ったり止んだりの今日。出かけようと思うと降る。ニッキーは控えめにふてくされていた。昨日も暑くて殆ど外に出ていないから、出かけたかったんだろう。
 夜になって雨が止み、コンビニに行くことにした。ニッキーはドアの前で喜びのダンス。ドアを開けてニッキーを先に出し、靴をはく。と、私がもたもたしている間に、ニッキーは突然うんこをしてしまった。我慢していた分早く出したかったんだ。ダンスで腸も動いていたし。
 いつもはお尻にビニール袋を固定するベルトを使って、排泄物は直接袋に回収する。今日はベルトを着ける前に出してしまったから、ドアの前の土の部分にブツが落ちてしまった。ニッキー自身は、排泄を許可されている場所でしたから、ほめて! と言わんばかり。それに、すっきりしたから早く出かけたくて、期待いっぱいにしっぽを振る。
 立ち上がって右手にビニール、左手で柱をつかみ、ブツを回収しようとした。柱の位置から離れていてなかなか取れないので、散歩に行きたくてじたばたするニッキーを見て、ちょっと迷った。
 ニッキーの肩に左手をついてバランスを取れば、周りにつかまるものがなくてもどうにか拾える。でもこの仕事は、ほとんど屋内でしかやったことがない。ニッキー、ここでちゃんとブレイスできるだろうか。遊びたくて仕方ない今のニッキーを、信頼できるだろうか。脳性まひは面倒な障害で、不安や緊張で身体がこわばって自由がきかなくなる。「ニッキーが勝手に動くかも」と考えたら、それだけでひっくり返るかもしれない。
「カム、グッド・カム、シット、イエス、グッド…」できるだけ静かに、仕事の気分にさせるようにコマンドをかけながら、ニッキーの反応を見た。これなら大丈夫、任せられる。「ニッキー、頼むよ。ブレイス!」
 ニッキーの肩に置いた左手にまず軽く力をかけ、踏ん張るのを確認して、右手の柱を放し、回収成功。長い数秒だった。
 ニッキーにとって、ブレイスはいちばん緊張する仕事のひとつ。必ず「サンキュー!」で解放する。またまたダンスを踊ったニッキーは、横っ飛びをしてプレイボウの姿勢でぴたっと止まった。前足を開いて胸を低く下げ、お尻をあげてしっぽを振るあのポーズ。
 そんなポーズ、ほんとに久しぶり。立派なうんこも出て、仕事も無事終わり、よっぽどすっきりしたんだね。
 私も一緒にすっきりした気分の、雨上がりの夜。さあ、散歩に行こう!


■2004/06/21 (月) キッチンにて

 一応自分で料理はする。不器用では誰にも負けないと自信がある(そんな自信があってどうする?)私だから、レパートリーは手抜き料理と呼ばれるものしかないけど。
 手際が悪いのを自覚しているから、必要な材料や調味料をすべて並べて、時間をかけて下ごしらえを全部終えてから調理。あっちの鍋であれをゆでながら、火が通る間にこっちでこれを刻んでおく、なんてことは、頭では分かっていても身体がついて来れない。途中で転んで慌てている間に黒こげ、となるのが落ち。
 そんな小学生の調理実習レベルの私の料理法を知っているニッキーは、私がキッチンでばたばた始めると、しばらくはかまってもらえないと察して、「ぐーぅ!」とのどを鳴らして寝てしまった。一応相棒の姿や動きが確認できるキッチンの隅で寝るところがかわいい。
 役目を終えた調味料や残った野菜なんかを、その都度片付けながら料理は進行する。半分のたまねぎを冷蔵庫に入れようとして、私ははたと困ってしまった。片手はたまねぎを握り、片手は流し台につかまって身体を支えている。この手を放したら転んでしまうだろう。冷蔵庫が開けられない。
 困っているのを察して、ニッキーが頭を上げてこっちを見たので、コマンドを出して冷蔵庫を開けてもらった。グッド!
 ニッキーはいつも、私がキッチンの段差や冷蔵庫までの距離を移動できない時に、冷蔵庫を開けて飲み物を持ってきて、戻って冷蔵庫を閉めるという仕事をしているので、私が冷蔵庫のすぐそばにいるのに「冷蔵庫、オープン」と言われて、一瞬不思議そうな顔をした。開けた冷蔵庫を、たまねぎを入れ終えた私が自分で閉めたので、またまた不思議そうにしている。でも、コマンドひとつひとつに従うのが仕事の基本だから、言われたとおりに手伝ってくれた。
 冷蔵庫を開けるのは、私の手の障害だけを考えれば簡単なこと。でも、立っていられない足を補助するために、どこかにつかまっていなければならない時、片手は使えなくなってしまう。そういう時にちょっとしたことを手伝ってもらえるありがたさを感じた出来事だった。
 ニッキーがいても2本足で歩けるようにならないし、料理も手伝ってもらえないけれど、それでもニッキーは私の「手」であり「足」。転んだのを助けたり、車椅子を動かす以外にも、こんな風に「足」になることもあるんだね。ありがとう、ニッキー。

■2004/06/20 (日) 当たり前だけど

 久しぶりに電車ででかけた。涼しくなってからだけれど、ニッキーはやっぱり舌が出て暑そう。気をつけてやらないと…と改めて思いながら帰宅。それでなくても普通より水をよく飲むニッキーは、家に入るなり水を飲みに、ボウルのある場所に直行した。少しだけ残っていた水を一気飲み。さらに新しい冷たい水を入れたら、嬉しそうに飲み続けた。
 若い頃からよく水を飲む犬だったので、気になって腎臓の検査を受けさせたこともある。今のところ毎年2回の詳しい健康診断でも問題はなし。でも、がぶ飲みした後、私のひざに頭を乗せて甘えながら、いきなり水を吐くのはやめてほしい。それに、がぶ飲みして身体にいいことなんてないんだから。
「もうやめとけば?」とニッキーになんとなく言ってみた。
 すると、ニッキーははたと顔を上げて私を見、水飲みのボウルと見比べてから、飲むのをやめた。別に命令口調でもないし、目を見て話しかけたのでもないのに、ずいぶん「言葉」に応えるようになったなぁ、と、ちょっとだけ感心する。24時間人のそばにいる犬だから、当たり前なんだけど。
 それから、寝る時に電気を消してもらった。紐を引っ張ると、蛍光灯2本、1本、黄色い電球、と切り替えになる昔ながらの電灯だから、何度か繰り返して紐を引っ張る。小さい電球を残したまま、「消したから撫でてよ」と私の手元に来るニッキーに、「もう1回」と言うと、慌てて戻って消してきた。これも、教えたことはないのに覚えてしまった言葉のひとつ。ドアを押したけれどちゃんと閉まっていない時とかにも使える、便利なコマンドになった。
 当たり前なんだけど、でもやっぱり当たり前と思えずに、そうやって以心伝心になってくれたニッキーをいとおしいと思った。


■2004/06/18 (金) テンションの低い日

 ラブラドールの平均からすればおとなしいけど、介助犬としてはテンションが高く、元気溢れるニッキー。テンションの高さがネタになることが多いけれど、今日はテンションが低かった話。
 いつもはニッキーの身体を、お湯でタオルを絞って拭く。今朝はちょっと汚れていると感じたので、オレンジオイルの洗剤を使って拭いた。薄め具合を変えれば食器も洋服も犬も洗えて、舐めても安全。オレンジの香りがするのも気に入っている。
 ニッキーは、みかんは食べるくせに柑橘系の香りが苦手。オレンジの香りのタオルを用意して「おいで」と言ったら、嫌そうに頭を下げて、ゆっくりとやって来た。拭きながら楽しげに話しかけ、おとなしく拭かれていることを褒める。どんなに褒めてもニッキーは嫌そうな表情のままだった。
 ついでに、キッチンとたたみの部屋を、同じ洗剤で拭き掃除。部屋中がオレンジの香りになり、私は気持ちよかったけれど、ニッキーは引き続き嫌がっている。
 おとなしいニッキーに、午後「リモコンを持ってきて」と頼む。どうしてもリモコンが取れなかったのではなく、仕事をさせて褒めてあげようと思ったから。ニッキーは、テーブルの上のリモコンを見つけてしっぽを振り、くわえて得意げに持ってきてくれた。「グッド! ありがとう」嬉しそうなニッキー。
 その時、テレビは犬が人を噛んだというニュースだった。檻の中で吠えるその犬の声が流れると、ニッキーはせっかくあげていたしっぽを下ろしてしまった。テレビの犬や猫は実物でないとよく知っていて反応しないけれど、犬の攻撃的な声はニッキーにとって、テンションの下がる響きだったらしい。
 夜は夜で、楽しみなご飯タイムの前に、サプリメントのカプセルを何度も口から出してしまい(飲ませる私が下手)、最後にのどの奥に無理やり入れられてテンションが下がってしまう。
 暑い上に、テンションが上がりかけると憂鬱なことが起きて、ニッキーにはめずらしく、低空飛行な日だった。腰が痛いのでもなく、いつもどおりジャンプもしているのに。
 寝る前にニッキーとおもちゃで遊び、トリーツを使ってゲームをした。嫌なことを忘れて、今日も楽しかった! と眠ってほしい。無駄な元気と言われてもいつものニッキーが好きだから。とはいえ、「テンションが上がらない」ことが日記に書くほどの出来事になるニッキーって…ああ、ため息。


■2004/06/16 (水) 朝練

 しばらくコーヒーを飲まずにいた。理由はなく、コーヒーを切らしてそのままになっていただけ。飲まないと夜はすぐに眠くなるようで、数日間はとても健康的な早寝早起きが実行できた。そして昨日からまたコーヒー生活に戻った。久しぶりのコーヒーは特別効くのか、調子に乗って何杯も飲んだせいか、多分両方だと思うけれど、なかなか眠くならない。
 夜更かししてパソコンに向かう私の足元で、ニッキーはよく寝ていた。寝言をいい、足をばたばた動かし、ふーんっ! と思いっきりため息をつき、やがていびきをかき始める。例によって全く野性を感じない、超リラックスな寝姿。
 パソコンにトラブルがあって時間がかかり、私がやっと寝ようと思ったのは、明け方4時ごろだった。でも、私が椅子から立ち上がった途端、ニッキーは目を覚まし、軽快に跳ね起きた。よく寝ていたから充電完了、しっぽも回転。嬉しそうに私にくっついてくる。
 ニッキーは、絶対に朝型になれない私と暮らしているくせに、何故か早朝5時頃に元気がいい。単にテンションが上がっているとかではなく、遊びたがり、集中力もある。日の長い時期だからその時間が早く訪れたのか、ニッキーは午前4時に絶好調。
 少しだけ訓練をすることにした。嬉々としてコマンドとハンドシグナルに応えるニッキー。まるで優秀な犬みたいだ。新しい仕事のために、ナイロン製のループを引っ張ることを新しく教えようと思っていたので、その練習もする。「タグ」と言われたら、紐や服を引っ張ることはよく知っているニッキー、今度はループの決まった位置をくわえて、力いっぱい引かなければならないので、引っ張りっこで遊びながら、少しずつ調整していく。
 ニッキーは経験から、紐や袖を引っ張る時はなるべく短く根元をくわえて引く方が、少ない力でうまく行くと知っている。だから私の手のすぐそばをくわえようとするのを、声のかけ方と遊び方でコントロール。正しい位置をくわえたらうんと励まして、さらに、まっすぐ強く引いた時にループを渡してほめる。成功したニッキーがループをくわえて「もっとやろう!」と言っているところで、やる気を残して練習終了。
 新しいことを教えるのはいつも楽しいけれど、ニッキーも私も、今朝は特別楽しい気持ちになれた。こんな朝練を続けられたら楽しそう。毎朝ものすごく濃いコーヒーを淹れて、頑張ってみようかな…絶対無理か………。


■2004/06/13 (日) 慣れ?

 相棒と離れられない犬ニッキー。今日もパソコンに向かう私の足元、キャスターつきの事務用椅子の足のところに背中がくっつくような位置に寝ていた。両手両足を投げ出して、無防備この上ない。
 ひと区切りついた私が、あー! と伸びをすると、ニッキーが慌てて立ち上がった。気持ちよく寝ていたのに、椅子が微妙に動いて、背中の毛がキャスターに引っかかったらしい。寝ていたいんだったら、最初からもっと安全な、邪魔の入らないところに寝ればいいのに。まぁ、そういうところがかわいいんだけれど。

 夕食を食べ終わってすぐに、何だかおなかが痛くなった。あわててトイレに行って電気のスイッチを入れたら、電球が切れてしまった。仕方なくドアを開けたまま入る。ニッキーはやっぱりついて来て、トイレの前で私の方を見ながら横になった。おなかの痛い私は相当長い間トイレに滞在していたが、その間ニッキーは、時々目をあげてこっちを見ては、安心したようにうたた寝を続けた。
 私はふと思う。トイレのドアを全開にして、正面から犬に見られていても全然抵抗がないって、一応女性としては、ちょっとやばいんじゃないかなぁ? ひとり暮らしが十年以上になるとこうなるんだろうか。いや、こうなっちゃったからこそひとりなんだろうか。それとも、単におばさん化しているってことなのか。
 一瞬、どんより落ち込んでしまう。でも、すぐに自分に言い訳した。外出先ではたいてい車椅子対応の広いトイレに、ニッキーと一緒に入るから、きっと、ニッキーに見られながら用を足すのは、慣れちゃったんだ、と。
 それだけ私達ふたりは、べったり一緒に過ごしている。ニッキーが私から離れないんじゃなくて、私もニッキーがいないと落ち着かなくてだめかもしれない。トイレの中で、腹痛と戦いながら、そんなことを考えていた。


■2004/06/11 (金) 笑顔

 雨が降る前にごみを出しに行った。ドアの前にごみを全部置いてから、先に車椅子でアパートの前の道に出て、ニッキーに「ごみ持ってきて」と頼む。本日のごみ、スーパーの袋に5個。ニッキーはひとつひとつ、袋の結び目をくわえて私と一緒に収集場所まで運んでくれ、段差を上がってそっと置いてくれる。
 私は助かるけれど、ニッキー自身はあまり好きな仕事ではないようだ。今日は何となくやる気がない。収集場所にごみの袋を置くたびに、気持ちを引き立てるようにオーバーにほめてやろうと思ったが、雨が降り始めて、気持ちはあせる。いまいち乗っていないニッキーを、よくないと思いつつ「ほら早く!」とせかしてしまった。
 みっつめの袋を運んで、収集場所に置いた時、「わぁ、おりこう! いいワンちゃんですね」と声がした。赤ちゃんを抱いた若いお母さんだ。税抜450円のTシャツとくたびれた短パンの姿で、目はオソロシク真っ赤なのにサングラスもかけずに、人に会ってしまったのがちょっと気になる私。
 でも、お母さんに抱かれた赤ちゃんが、まるでベビー用品のCMのように、見事ににっこりと微笑むので、そのたびについ、こっちも笑ってしまった。例によって「何歳ですか?」なんて犬の話になったけれど、まるで会話に参加しているみたいに、赤ちゃんも笑う。
 雑誌モデルに応募を勧めたくなるほど、笑顔上手な赤ちゃんだ。こっちがつられて笑うと、またにっこりと笑顔を見せる。笑顔に笑顔を返すのって、動物の本能なんだとふと思った。ニッキーだって、嬉しそうな声で語りかけられるとしっぽを振り始めるし、薬を飲ませる時に私が一緒にあーんと口を開ければ、素直に口を開ける。人間と動物でも、人間同士でも、言葉の分からない赤ちゃんにでも通じる、いちばんシンプルなコミュニケーション。
 君が楽しい時は私も楽しいよ、という単純な共感が、きっと相手に元気を伝えていく、そんな気がした。
 雨が強くなり、急いで残りふたつの袋を運ぶ。「さあ急ぐよ! でも楽しくね!」私も今度は、意識して笑顔をつくり、ニッキーに笑いかけながら言ってみた。ニッキーは耳を開いて私に笑顔を返し、さっきより軽い足取りでごみの袋を取りにいった。

■2004/06/10 (木) いい年をして…

 三十路半ばにして、私は今日、生まれて初めて、蛍光灯を替えた。
 嬉しかったから、書いてしまおう。実家にいた時は、両親もいるから蛍光灯も電球も替えたことなんてなかった。スタンドの電球ならともかく、天井付近の蛍光灯や電球は、自分では絶対に替えられないと思っていた。
 ずっとちかちかしていた部屋の蛍光灯。いつもなら、どんなに不便でも誰かが来てくれるまでずっと待つところだ。でも目の調子が悪くていつも以上に見えづらいし、一刻も早く仕上げたい原稿も書類もあるから、パソコンや机に向かわない訳にもいかない。
 しばし、天井の蛍光灯を見つめて考え込む。ニッキーはそんな私を、少し離れて見守っている。私が安定のいい椅子をがたがた動かし始めると、ちょっと嫌そうな顔をしてハウスに寝てしまった。
 椅子に乗るのではなくて、左手で椅子の背につかまって部屋の真ん中に立ち、右手を伸ばして蛍光灯を替える作戦。我が家の照明は普通より結構低いので、ぎりぎりで手が届く。
 不器用な片手でなかなか蛍光灯がはずせず、何度もバランスを崩して倒れそうになった。普段立ち続けることなんてない足がつった。椅子に座って休憩。脚立を持った江角マキコが近所を通りがかって欲しい。
 古い蛍光灯がやっと外れた頃には、貧血のせいか目のせいか、めまいがしてどうにもならず、一度横になった。
 新しい蛍光灯に「はまれ!」と叫びながら、作業再開。S字の金具と格闘し、プラグでまた格闘し、汗だくである。椅子の背をつかんだ左手はもう、ぷるぷる震えている。すっかり周りが暗くなった頃、ついにプラグがはまった! スイッチを入れて、ぱっと灯りがついた時の嬉しさ。
 その瞬間、私の緊張が解けたので、ニッキーが駆け寄ってきてくれた。
「ニッキー、私すごいよ。ほめてよ。グッドガールでしょ?」訳の分からんことを言いながら、ニッキーと一緒に大喜び。いつもはニッキーを「グッドボーイ」とほめている私だけれど、今日は自分に、グッドガール!
 いい年をして初めて蛍光灯を替えた私。いい年をして自分をグッド“ガール”なんて言ったら、笑われるだろうな。でも、8歳のニッキーだってボーイなんだし、今日は子供のように「できた!」と喜びたいのだ。ニッキーさんはしっぽのない私の代わりに、太いしっぽをぶんぶん振っていた。
 ニッキー、私をほめてくれたんだよね、ありがとう。


■2004/06/08 (火) 招き犬

 東京では見られなかった、某友人が出た某番組を、別の某友人に録画して送ってもらった(ありがとう!>某友人)。盲導犬の番組で、よくあるお涙ちょうだいではない感じだったので、見ていて嬉しい。パピー、訓練犬、盲導犬、引退犬…それぞれの犬たちと人との関係を、いろいろ考えたりして。
 ビデオを見終わった時、ニッキーはカーペットの上にいつもの横座りダウンで寝転がっていた。こういう番組を見た後は、ニッキーを抱きしめたくなる。私はずるずる這ってニッキーに近づいたけれど、ゆっくり少しずつしか近づけない。
 近づいてくる飼い主を見ていたニッキーは、しっぽでぱたぱた床を叩き始めた。耳も口元も嬉しそうな表情で、撫でてもらえるのを待っている。家でニッキーに話しかける時は今でも時々英語な私、「I love you, too」と声をかけた。日本語で口に出すと場合によっては大きく誤解を招くだろうな。
 ニッキーはそういう言葉を知っているから、さらにしっぽを振って、前足で一生懸命手招きを始めた。かまってもらいたい時には前足を差し出したり、撫でてもらうために私の手を前足で引き寄せたりすることもあるニッキーは、早く撫でて! という時に、こんなふうに招き犬になる。
 最近特に、寝転がったまま手招きするようになったみたいだ。なまけているのかも。でも今日はいいや。寝たまま飼い主を待っていたニッキーを抱きしめる。ニッキーは、手招きしていた前足で、私の肩をぽんぽん叩いた。
 大きな犬のぬくもりと、ちょっと痛い前足を受け止める、しあわせなひととき。


■2004/06/07 (月) すべる!

 実家からアパートに帰る日。出発したお昼ごろはかなり雨が降っていた。ニッキーは例のコートを、今回は本来の雨具として着た。丈が少し足りないので、無理やり引っ張って付属のフードをかぶると、見た目かなり面白い姿になる。
 実家の最寄り駅は、改札の前の床がつるつるで、かなり濡れているからニッキーが足を滑らせないように気をつけて、ゆっくり歩く。このゆっくりがかえってよくなかったのか、ニッキーは一生懸命私に合わせようとして、歩きづらそうだった。
 屋根のあるところに入る前に、コートについた水滴を払ったら、撫でられたと勘違いして妙にテンションの上がるニッキーさん。嬉しくて足踏みをし、また滑りそうになる。
 このコートを着ていると、つるつるした床だとお尻が後ろにすべってしまうらしい。乗り換え駅でエスカレーターを待つ間や、切符を買う間、シットの姿勢が維持できなくて困るニッキー。ニッキー自身はちゃんと座り続けていようとしているのだけれど、すべる。いつもはシットのところで、今日だけはダウンを指示して対応した。
 そして、某大きな駅で乗り換え電車を待っていた時のこと。足元はつるつるだった。私は一応ニッキーにシットの指示を出し、すべるようならダウンさせようと思った。一応本犬も、指示通りに座っていられないと申し訳ないと思うのか、何だか全身に緊張感のあるシットをする。それでもお尻は後ろに滑っていく。
「ニッキー、ダ…」と言いかけた時。ニッキーは滑っていったお尻を追いかけるように、全身で後ろに下がって座りなおした。そして今度は、ぴたりとシットしたまま滑らない。
 あれ? と思ったら、ニッキーは点字ブロックにお尻を乗せるように座っていた。なるほどね。


■2004/06/05 (土) 新しいお店

 実家で数日過ごすと、ニッキーはそれなりに楽しそうだ。それでも私が着替え始めると、しっかり観察している。
 ジーンズに履き替えると、私の外出を察して、嬉しそうにうろうろし始めた。実家にいれば、時には母に近くの川原に連れて行ってもらうこともあるけれど、やっぱりニッキーには、ハーネスを着けて仕事に行くのは特別な楽しみなのだ。
 今日は暑いし、母も一緒だし、買い物に行く店はニッキーを連れて行ったことのないところだし、ニッキーは留守番させようと思っていたけれど、本犬のアピールに負けて、連れて行くことにする。
 あっさりと介助犬の同伴を認めてもらい、荷物用のエレベーターを使わせてもらって店内へ。今回の目的は、4階の中古パソコンフェアだったのだけれど、売り場の人はかなり暇そうな感じだった。
 ベテラン犬ニッキーは、狭い売り場でもするすると、ぶつかったりすることなく動く。狭い通路では車椅子の後ろに下がり、私がしばらく止まって商品を見ていると、車椅子の左側に伏せて寝る。
 暇だった店員さんは、犬好きな人だったらしく、そんなニッキーの様子に「おとなしいですねぇ、お利口なんですね」と言い、一応ちゃんと使用者の私の許可の後、しゃがんでニッキーを撫で、挨拶した。そして、購入した中古パソコンに、「この子にさわらせてもらったから」とサービスでofficeをインストールしてくれた。得した気分。
 その後少し買い物したけれど、どの売り場でも好意的な視線と対応だった。買い物中のおばちゃんたちが「ああ、介助犬だ」だけでなく、「そっとしておいてあげないとね」と言ってくれたのが嬉しい。中には「ほら、車椅子の人を道案内してあげる犬だよ」と、盲導犬とごっちゃになった説明をしている人もいたけれど。
 どの売り場でも、それから荷物用のエレベーターに乗る時も、「また来てね!」と声をかけられ、またニッキーと行けるお店が増えた。実家にいるとどうしてもハーネスを着けることが少ないニッキーも、それなりにプライドを満足させたらしい。
 小さな小さな一歩だけど、今まで何年も似たような出来事を積み重ねて来たけれど、それでもやっぱりニッキーに「よくやった!」と言いたい私だった。


■2004/06/03 (木) コート効果

 いつもの眼科ではなく、別の病院の別の科に行く日。いつもの病院では、盲導犬の前例があるし、結構頻繁に行くので、お医者さんも看護士さんも患者さんも、ニッキーをよく知っている人も多い。でも今日は、もちろん許可を得ているとはいえ、まだまだニッキーを見慣れてもらっていない病院だ。
 ニッキーには、先日作ったばかりの全身を覆うコートを着せた。抜け毛の防止のためだけれど、「出来る限り気を遣っています」という見た目のアピールでもある。ラブラドールとしては細身のニッキー、某メーカーの大型犬用コートのSSサイズで、やや着丈が短すぎるものの、大体ぴったり。脚までガード完了。
 このコートが意外なくらい好評だった。何度も来ている病院なのに、いつも以上に「あらかわいい!」の声がかかる。薄いブルーとそれより少し濃いブルーの切り替えのコートは、ちょっとベビー服みたいで、おやじ犬ニッキーが妙にかわいらしくなっていた。知らない人、特に女性に微笑みかけられてしまう。
 ゆっくり進む私の車椅子に合わせて歩くニッキーは、歩幅を小さくする。コートの生地がかさこそ音を立てるから、そのちょこちょこ歩きも目立って、でかい犬がちまちま歩く姿にまた「わんちゃん、一生懸命なんだね」なんて言ってくれる人もいた。
「見た目」で受け容れられても、安心はできないと思う。逆に、大きくて黒い犬という「見た目」だけで誤解されることもある。コートを着ているために「暑いのに…」と言う人にも、ニッキーの一生懸命さゆえに「ああいう犬は神経を使って早死にする」なんて根拠のないことを言う人にも、今日は遭遇した。
 受け容れてもらえるように見た目をつくることよりも、大切なのは、受け容れてもらったその場所で、実際のニッキーを見てもらうこと。私とニッキーの「使用」だけでない関係も、どんな時にどんなことをしてくれるのかも。
 見てもらうために頑張ろうとは思わない。ニッキー、私達の暮らしを、私達のペースで続けて行こうね。コートが床で滑って座ったまま後ろに下がってしまう間抜けな姿も、そのまま見てもらおうね。


(C)Yuki+Nicholas, http://blackdog.whitesnow.jp/