日記過去ログトップへ
前の月へ / 次の月へ

くろいぬ日記

黒犬ニッキーと相棒の日々、時々猫も登場?

2004年9月の日記

■2004/09/29 (水) 微妙なところ

 台風の影響で夕方から雨、と天気予報が言うので、お昼頃に急いでニッキーと散歩に行く。その時すでに小雨が降っていた。そして、歩いているうちに大粒の雨が。
 いつものように楽しむ余裕もなく、大急ぎでちょっとだけ歩いて、あっという間に帰ってきた。仕事の機会もなかったニッキーさん、ちょっと不満げ。
 夕食の時にお茶を持ってきてもらった。退屈していたニッキーは、元気よく冷蔵庫に突進していこうとする。我が家のちっちゃな冷蔵庫は、あちこちがたが来ているので、そんな勢いでばーんと開けたりどかーんと閉めたりされたらたまらない。
「にっちゃん、ウォッチ・ミー(こっちを見て)」と呼び止めて目を合わせ、落ち着かせる。目で示しながら、ささやくように「冷蔵庫…」と言うと、ニッキーはゆっくり冷蔵庫に向かい、そっと開けて、中のペットボトルをていねいにくわえて持ってきてくれた。
 さすがニッキー、パワフルな身体に繊細な感性の持ち主。ちゃんと私の視線や声の調子に反応してくれる。我が犬ながらなんていい子だろう♪
 こうしてちょっとした場面で私の気持ちを汲み取って動いてくれることが、何よりも嬉しい。年齢を重ねて更に以心伝心、微妙なところを微妙に理解してくれるようになった。
「ザッツ・マイボーイ!!」その微妙なところの見事さ(?)を思い切り褒めた。毎日のことでも私にはちょっと感動的だから、心をこめて褒める。
 ところが、ニッキーは褒められて嬉しくなり、せっかく下げたテンションが一気に上がってしまった。私が「閉め…」と言いかけた時にはもう、「おう、合点だ!(何故か江戸っ子調)」と再び冷蔵庫に突進! 力強い前足パンチで扉を閉める。あーあ、ドアポケットが壊れているから、そっと閉めて欲しいのに。
 嬉しがりでお調子者なニッキーの性格が分かっているのに、うっかり調子に乗せてしまった私がいけないよね。7年近く一緒に暮らして、ニッキーはこんなに成長しているのに、私は修行が足りない…?


■2004/09/25 (土) 深夜の電話

 夕方、しばらく会っていない友人から電話があった。久しぶりだからつい話し込んでしまった。
 ニッキーは、私が電話している時は静かにしているけれど、自分の話題が出るとしっかり聞き耳を立てる。電話の相手がうちの母の時と痔先生の時だけは、時々ちょっかいを出してくる。私の口調と、受話器から漏れてくる音で相手が分かるんだろう。反対に、犬の嫌いな人との電話の時は、自分の話題も出てこないので、熟睡していたりする。
 今回の電話の友人、一度ニッキーと会った時は「でっかーい!」「真っ黒でロデムみたい」と、ちょっとびびっていた。あまり犬が好きではなさそうだ。ニッキーも電話中は熟睡コース。
 そして、その夜もう一度同じ友人から電話がかかってきた。かなり遅い時間だったけれど、学生時代に戻ったような気分で、深夜にくだらない会話をして、何度も笑った。
 すると、夕方の電話では熟睡だったニッキーが、何故か電話の邪魔をし始めた。左手に受話器を持って話している私の右手に、何度もしつこくお手をして、撫でろと要求する。わざと受話器のコードを踏んだりもする。
 いつもは、電話中に邪魔するといっても、自分も会話に参加したそうにうろうろするだけなのだけれど、今回はそうではなく、電話より自分に関心を向けさせようとしている。いつもなら電話を切ると、待ってましたとばかり寄ってくるのに、電話を切ってから「もういいよ、おいで」と言ったら、今度はわざと自分のハウスに行ってしまった。
 もしかして、にっちゃん、やきもちを焼いてるの?
 いつもふたりきりで過ごしている時間に、電話がかかったからかな。それとも、10年以上前からの友達との会話に、ニッキーと会う以前の思い出話や、ニッキーの知らない人の話題が多かったのを、何となく感じていたのかな。
 言葉は分からなくても、私の声や話し方や態度で、かなりいろんなことを理解しているらしいニッキー。それはそれでとてもかわいいんだけど…やきもちはほどほどに、ね。


■2004/09/23 (木)

 少し遠回りしていつものスーパーに行った。買い物してから店の奥にあるトイレに入る。一応車椅子対応なので楽に入れるけれど、方向転換して鍵をかけるのがちょっと大変。私の車椅子は安定よく作ってある分小回りがきかないのだ。
 後ろ向きのままドアを指差して、ニッキーに「スイッチ(前足で押して)」と頼み、レバー式の鍵をかけてもらう。ニッキーが歩く音、前足でレバーを押す時ドアが立てる音、鍵がかかる音。音だけでもニッキーの動きが分かるけれど、車椅子の人の高さを考えて斜めに取り付けられた鏡もある。だからニッキーが、これでいいの? と目で聞いてきた時には「イエス」の声をかけてやれる。この鏡、結構便利かも。
 でも、直接私の表情が見えないニッキーは、あれ? という顔をして、何だか落ち着かなかった。その様子が面白くて笑ってしまった。車椅子の私より更に低い目線のニッキーは、鏡に気づいていない。
 トイレを出る時に、もう一度同じ場所から「ライト」の指示をして鍵を開けてもらった。「ライト」は本来「灯りをつけて」だけれど、スイッチを鼻先で押し上げる動作なので、レバーを鼻で押し上げなさい、という意味で応用している。ちなみにアメリカ育ちのニッキーはLightとRightをちゃんと聞き分ける。
 そして。鍵を開けたニッキー、今度は「どう?」と偉そうに頭を上げた拍子に、鏡の存在に気づいたようだ。斜めになった鏡を通して、私とニッキーの目があった。偶然かな? ニッキーがどんなふうに鏡を理解しているのかは分からないけれど、鏡を通してしっかり私の目を見て、しっぽを振ってくれた。
 そういえば、鏡に映った私を本物と勘違いしてじっと見つめ、本物の私にはお尻を向けていたこともあったよね。きっと、鏡をちゃんと理解しているわけではないんだろうな。そうは思うけれど、鏡越しにニッキーと目が合った瞬間、やっぱり微笑んでしまった私だった。
 ニッキーのあのたれ目を見ると、どんな時でもにっこりしてしまうのが、私の条件反射らしい。


■2004/09/19 (日) 大喜び

 相棒の調子が悪いから、排泄だけをドアの前の場所で済ませたり、近くをほんの少し歩く程度の散歩をする日がしばらく続いていたニッキー。
 家の中の仕事もいろいろあるから、それなりに頭を使ったりもしているけれど、やっぱり出かけたいんだろうな。私が着替えていると、期待したニッキーがわざとらしく1メートルぐらい離れて、じっと私の様子を観察している。
「ただうろついてるだけ」ってふりをしているけれど、期待いっぱいなのは、鼻や耳の動く感じで分かる。鼻の上のところに左右1本ずつある短いひげが、鼻の動きにつれてぴくぴく上下するのには笑えた。
 ニッキーの期待に応えて、ハーネスを着けて出かけることにした。私がハーネスを手にすると、例によって高速左回りで喜びを表現する。
 いつもニッキーは、「ドレス・イット(着なさい)」のコマンドで自分からハーネスに首を入れる。嬉しさのあまり、前足を入れるところに顔を突っ込んだり、ハンドルに脚を引っかけたりすることも。
 今日は、首を入れるところにきちんと首を入れてくれた…と思ったら…あれ??
 いつもの順番で、右前足を決まった場所に入れようとしたら、うまく行かない。ハーネスがねじれたようになっている。一旦ハーネスを外してやり直そうと思ったが、ニッキーはもう行く気満々でしっぽをびゅんびゅん振り、外そうとしてもハーネスに首や前足を突っ込んでくる。
 引っかかったりねじれたり、何がどうなっているのかも分からなくなり、とうとうハーネスのあちこちのベルトや金具を一旦全部外して、やり直すことに。7箇所のベルトを調節しながら犬の身体に合わせるので、結構面倒。更に、やる気スイッチの入ったニッキーが早く早くとせかして来るから、出かける前に疲れてしまいそうだ。
 どうにかハーネスを着けて出かけ、いちばん近いコンビニで買い物した。ニッキーの出番は、歩道の段差を上がる時に車椅子につけた紐をくわえて補助したのと、ペットボトルを運んだことぐらいだったけれど、ふたりで出かけ、「グッド・ボーイ! サンキュー」の言葉を貰って、それなりに満足した様子。
 9歳近くなっても、まだまだ元気に溢れたニッキー。元気なのはいいけど、「無駄な」元気も炸裂している。でも、ハーネスが大好きでいてくれるなら、そして私の「サンキュー」で喜んでくれるなら、まぁ、いいか。


■2004/09/14 (火) 翌日の風邪

 OL時代に、具合が悪い時会社に行くか・休むかのボーダーラインは38度と決めていた。発熱すると私の場合、筋肉の余計な緊張がほぐれるのである意味楽だけど、38度を超えるとやっぱりまともに起きていられない。で、手元用の眼鏡で一生懸命体温計を確認すると、今朝はぎりぎり37度台に下がっていた。ひとまず安心。
 ニッキーは、私がダウンした時の定番の仕事を、何度も繰り返す。薬を飲む時は冷蔵庫から飲み物を運んできてくれる。鼻水が止まらないから、ティッシュを持ってきてくれる。電気をつけたり消したり、ベッドから落ちるリモコンや携帯電話や体温計を拾ったり。トイレには先に行ってドアを開けてくれる。
 どれも、普段はほとんど頼まない仕事なのに、私の小さな声の指示できちんとこなしてくれるのには、ちょっとだけ感心した。やればできるじゃん。っていうか、やればできるんなら、いつもやれよ!
 昨日はニッキーのやる気を維持すべく、ご褒美作戦だったから、ニッキーは多分おいしいもの欲しさに頑張ったのだと思ったけど、トイレにふらふら向かいながらテーブルの上を見ると、ご褒美作戦のために小さく切ったジャーキーひとつかみが置き忘れられていた。冬はこたつになるテーブルだから低く、ジャーキーはニッキーの鼻先、とっても食べやすい位置にあったのに。
 食欲の鬼ニッキーが、おいしいジャーキーに見向きもせず働いていたなんて。律儀にルールを守った我が犬を、抱きしめて褒めた。やっぱり食べ物より、相棒のために頑張ってくれるんだね。
 ニッキーは私の顔をなめ、熱があるから、いつもは温かいニッキーのぺろぺろが、ひんやり感じた。病気の時は、それがただの風邪でも、やっぱり気が滅入る。ニッキーがいてくれること、心の通い合う、私のことを気遣ってくれる相棒の存在が、素直に嬉しい。
 と、その時。ニッキーにぺろぺろされながら私が咳き込むと、また鼻水が…なんと、狙ったようにニッキーの口の中に私の鼻水が入ってしまった。ニッキーは一瞬固まって、思い切り引いた。キタナイ現実に、急速に冷めていく感動。
 今日はニッキーとの間に「強い絆」を感じたつもりが、鼻水ごときで引かれてしまっては、まだまだ私も未熟な相棒だよね。


■2004/09/13 (月) 風邪の夜

 日曜日、のどが痛いな、と思っていたら、月曜になって熱が出た。ニッキーは、じっとこちらを観察している。「大丈夫だよ」と声をかけると近づいてきて、顔を押し付けて静かに甘える。
 具合が悪くなると弱い部分に出るのか、私はちょっと熱が出るととにかく目が痛い。眼圧が上がったのかな。目を開けていられない。ベッドに横になったままニッキーに電気をつけて欲しいけれど、指示をする前の大事なアイコンタクトが出来ない。ニッキーを呼び、閉じた目にいつものたれ目を思い浮かべながら、「ニッキー、クリック(電灯の紐を引っ張って)」とゆっくり指示した。
 指示の前や褒める時、目を合わせるのが習慣だから、ニッキーは戸惑ったようで、少し時間が経ってから、スイッチのかちっという音がした。「グッド!」
 どうにか薬を飲んで、トイレに立ったついでに、スポーツドリンクを粉から多めに作って小さなペットボトルに分け、冷蔵庫をいっぱいにした。それから、ニッキーの大好きなレバーのトリーツを買ってあったのを、ベッドに持っていった。前にも書いたけれど、ニッキーが拾ってくれたコインが貯まると、ニッキーの好きなおいしいものを買う。普段ほとんどおやつをあげないので、買ったジャーキーやビスケットは、結構たまっているのだ。
 目も合わせられない、手を伸ばして撫でるのも大変、楽しそうな声も出せない今日の私。ニッキーをちゃんと褒めて、やる気を維持してもらうために、いつもは使わない食べ物を使う作戦。ずるい?
 冷蔵庫から飲み物を持ってきたり、携帯電話を拾ったり、ティッシュを箱から1枚だけ抜いてきたり。そのたびに今日は、かすれた声の「サンキュー」の後でレバーが貰えるニッキーさん。レバーをしっかり食べてから、「でも、撫でて欲しい」と私の手に顔を押し付けてくる。
「レバーなんていらないから撫でて!」って言われたら感動しちゃっただろうけど、レバーはちゃんと食べて、それから「撫でて」である。相棒、心中複雑。
 それでも、ハウスに戻らずずっと私の手が届く範囲にいてくれたニッキーが、やっぱり頼もしい。私がちょっとでも動いたり、咳きこんだりすると、そのたびに寝ていたニッキーが、いつでも立ち上がれるダウンの体勢になる。いつもは爆睡なのに。
 ありがとう、ニッキー。


■2004/09/10 (金) オリジナル

 外出する用事が結構あってあまり見られないけれど、聴導犬のドラマを放映しているので、一応なんとなくテレビをつけている。
 報道でも思うことだけど、補助犬に関して、ひとつの団体のやり方が全てという感じで伝わってしまうのは嫌だ。各団体・協会で、犬の育て方も使う言葉も違う。放送の影響が、時にはユーザーを傷つけることもある。気になってしまうなぁ。
 と、そんな気持ちでテレビをつけっぱなしにして、ニッキーのブラッシングをしていた時。テレビの中で、「トイレのことはパーティと言います」と言い、子犬に「ゴー・パーティ」と声をかけて排泄させていた。
 多分「Go potty」のことだと思う。Potty(片仮名にしたら、パティ、と発音)はおまるの意で、トイレを表す幼児語。脚本にする時に「パーティ」という表記になったのかも。
 ちょっと笑った。でも、困った。
 私は、ニッキーのコマンドは出来るだけ、他の誰とも、どの団体とも違う言葉を使いたいと思っているあまのじゃく。自分で訓練したから、使う言葉も自分で選んだ。例えば、介助犬が物をくわえる時のコマンドは、日本ではほとんどのところで「テイク」だから、私は「ゲット」にした。
 最初に訪問したアメリカの訓練所の真似をして、今までニッキーの排泄には「ゴー・パティ」のコマンドを使っていた。同じコマンドが日本の聴導犬の団体で使われていたとは知らなかったけど、テレビの影響でいろんなところに使われたら、更に口惜しい。
 今度こそ誰も使わないコマンドに変えたいと、あれこれ考えてみた。でもニッキー、もうすぐ9歳…コマンドの変更はかわいそうかな?

 人があまり使わない、英語と日本語が妙な具合に混ざった、私とニッキーの間のコマンド。人に笑われてしまうこともある。私は英語もかなり早口なので「何て言ったの?」と聞かれることもある。
 それでいい。私はニッキーにだけ、大切なコマンドを聞き取って欲しいのだ。褒める時も叱る時も、ニッキーにだけ伝わればいい。
 かくして今日も、訪問した先で「介助犬は英語で命令するんですか? 日本語ですか?」と聞かれて、「どっちだっていいんです。使う人と犬だけに通じて、周りには意味が分からないぐらいがいいんですよ」なんて答えた私だった。
 誰にも分からない秘密の鍵のような言葉を、ニッキーとこっそり、たくさん共有していたい。
 私とニッキーのオリジナル。


■2004/09/08 (水) うまく行ったね

 今日はニッキー、いろいろあった1日の最後に、頑張ってくれた。楽しみながら教えていたけどあまり上手く行っていなかった、レーザーポインターを使った仕事に、花丸の大成功を収めてくれたのだ。
 場所はJRの駅の歩行者通路にあるエレベーター。ここのボタンは、球体の表面を切り取ったような丸いボタンで、ニッキーの苦手なタイプ。何度も繰り返してようやく押せるという感じ。車椅子をボタンに横付け出来ない配置になっているので、私も苦手なボタンなのだが、押してエレベーターに乗らなければ帰れない。
「ニッキー、ゴー、アップ、スイッチ(先に行って、後ろ足で立ち上がって、ボタンを押して)」
 みっつのコマンドを一気に聞いてニッキーは、狭い通路の突き当たりのエレベーターに向かったものの、動きが止まってしまった。このコマンドはよく使うから、意味が分からなかったわけではない。ボタンの位置を間違えて、反対側の壁を見ていたのだ。犬だから鳥目ではないと思うけど、やっぱり周りが暗かったから?
 そこで、レーザーポインタで指してみせた。「赤いの見て!」
 ニッキーは赤い光を前足でしっかり押さえる。目標がはっきりしたから、ニッキーも自信があるのか、いつにもまして力強く繰り返し、あっという間にドアが開いた。
 どうだっ! と振り返る顔は、とっても得意げ。仕事が成功したことや相棒が喜んでいることが分かるんだね。私もすごく嬉しくて、ふたりで騒いでいたら、せっかく開いたドアが閉まってしまったけれど、次にはなんとニッキー、一発成功してくれた。
 小心者ニッキーが、珍しく自信満々でしっぽをぴんと立てる。
 そうか…と思った。ニッキーがこのボタンを苦手だったのは、もちろん形のせいもあるけれど、どこか自信がなかったのかも。何をすればいいのかがはっきり伝わり、ニッキーに「出来る!」という自信があれば、もっとうまく行くんじゃないかな、と。
 いつも以上にニッキーをうんと褒めた。今日の成功がニッキーの繊細な脳みそにしっかりと残って、自信になってくれるように。仕事をしてもらうためだけじゃなく、ニッキーにはこれからもずっと、しっぽを立てて笑っていて欲しいから。


■2004/09/06 (月) 靴下

 5本指ソックス、というのを試してみた。私の足は、杖歩行時代に無理やり歩いていたせいで、動かない指がくっついて曲がっている。動かない分血行が悪いし、無意味に汗ばんだりするので、少しでも快適に過ごしたくて、噂の(?)5本指ソックスを履いてみることに。
 でも、履けない(←買う前に気づけよ>自分)。普通のソックスを履くのにも硬直した足首に苦労しているのに、動かない上にそれぞれが少しずつゆがんだ足の指をひとつずつソックスの指にはめ込むのは、地味で不毛で大変な作業だった。
 で、せっかく履いても、足先の感覚が鈍いので、履き心地はよく分からなかった。何のために…とちょっと後悔するが、苦労して履いたので脱ぐのも悔しくて、1日履いていた。多少快適だったような気がしなくもない。これが5本指ソックス初体験の、微妙な感想。

 身の回りの大抵のことは自分でできるし、外出してもニッキーがいればほとんど苦労しない私だけれど、久しぶりに「うわー、できない!」を体験した。なぜかそれが、楽しいと感じた。
 うーん、この感覚、他人には説明しづらいけど。
 長いこと付き合ってきた、CP(脳性まひ)とROP(未熟児網膜症)付きの私の身体。車椅子で歩くことも、見えづらさを耳や指で補うことも、あらゆる動作に少々手間をかけることも、日常になっている。自分の身体の癖みたいなものも把握しているから、例えば足がぎゅっと突っ張るのを逆に利用する、なんてことも出来る。
 そんな自分の身体が、しんどい反面いとおしい。久々の「できない!」は、その身体と正面切って向き合う体験であり、親友とスポーツの真剣勝負をするような面白さもあるのだ。和式トイレのように勝負にもならない完敗だと、面白くもないけど。
 悲喜こもごもあれこれ差し引き考えて、この身体が自分のものでよかったと思う。神さまが障害のない身体に取り替えてくれると言っても、丁重にお断りする。
 この身体しか経験のない自分の強みで、現実の自分と「障害のないワ・タ・シ」という架空の存在を取り替える気なんてない。もちろん、これからもっと動けなくなるのは覚悟の上でね。

 私が自分の足と格闘している間、ニッキーは時々こっちを見ながら横になっていた。私が苦労しているから、出番があると思っていたのかも。ニッキーにとっても、こんな私と付き合う「仕事」は楽しいことなのかな。そうであって欲しい。


■2004/09/04 (土) 寝る犬

 AWDSAの訓練所を見学に来た中学生の皆さんの前でちょっとお仕事をした。ドアを開けたり、コインを拾ったり、冷蔵庫から飲み物…のはずが、そこには中濃ソースしかなかったので、一瞬目が点になり、困った顔で私のひざにソースのボトルを持ってきたり。
 痔先生や私が質問に答えたり、ジローが訓練の実演をしている間は、リラックスして寝ていたニッキー。少なくとも「犬は仕事を楽しんでいるし、どこにいてもリラックスしています」という言葉を証明することだけは出来たかな。
 その後、生後3ヶ月の子犬とご対面した。猫が大好きで、猫たちにはとっても寛大なニッキーなのに、実は子犬は苦手。もちろん、吠えたり噛んだりはしないけれど、匂いを嗅がれて固まっていた。人間たちが食事をし、子犬に注目している間、ニッキーは気配さえしないほど静かに、テーブルの下で伏せていた。これが彼なりに、子犬にまとわりつかれないための作戦だったらしい。
 そんな訳で、外出はしていたけれど、ほとんど寝ていた本日のニッキー。それなのに、家に帰ってもよく寝ている。いくらリラックスしていても、私の動きや言葉を常に意識しているから、それなりに気を遣って疲れたんだろうか。
 トイレから出てきたら、トイレの前ででかい黒犬が半端に手足を伸ばして寝ている。通路は完全にふさがれている。私は当然またいで通ったり出来ないから、ニッキーに声をかけてどかせようとした。
「ニッキー、行くよ!」この言葉を聞くと、出かけるのが大好きなニッキーはいつも、さっと立ち上がってくれる。でも今日は、黒い目の下に白い三日月を見せて上目遣いで私の顔を見て、立ち上がろうとしなかった。今日はもう外出したくないのか、それとも雨が降っているからなのか。
 身体を使って疲れることはほとんどなかったけれど、それなりに気を遣って疲れていたんだね。改めて「ニッキー、ごめんね、どいてくれる?」と頼んだら、ゆったり立ち上がって場所を空けてくれた優しい我が犬。私もニッキーを思いやってあげなくちゃ。
 今日はニッキーを休ませて、なるべく自分の身体を動かすことにした。
 それにしても…何時間寝るんだろう、ニッキー…。


■2004/09/01 (水) 今でも好き

 青森旅行で家族へのお土産に買った、ひばの木の玉。スーパーボールぐらいの大きさの木の玉をいくつか、お風呂に浮かべたり、身体をころころマッサージして使うらしい。お風呂で極楽気分を味わうのが趣味の私、こういうのが大好き。
 実家のお風呂で早速使ってみようと思ったら、何故か1個だけ、床に転がっている? 母いわく「ちー達がじゃれるかと思って…」って、あーあ、せっかく買ってきたのに。リズ、ギギ、ちーの3匹の反応はあまりよくなかったそうだ。木の香りが、猫たちにはお気に召さなかったのかな。
 ニッキーにはサイズが小さすぎるし、仮にも老犬なのだから、まさか遊ばないだろう…と思いつつ、あげてみた。どうぞ、と目の前に投げてやると、落としたと勘違いしたニッキーは早速拾ってくれたので、改めて「オーケイ」と遊ぶのを許可する。
 ニッキーは、食べられない木の玉に最初は興味がない様子で、ころんと床に落とした。でも私が「よーしニッキー、ゲットしてごらん!」とテンション高く誘うと、カーテンの陰に転がった玉を、前足で掻き出そうとする。
 ニッキーの前足パンチの勢いで、玉は予想外によく転がり、狭い部屋の端まで飛んでいった。それがレトリーバー魂に火をつけたのか(?)追いかけるニッキー。
 そして意外にも、一旦その玉をくわえたニッキーは、何故か気に入ってしまったらしく、放そうとしない。私が言えば渡してくれるだろうけれど、母が「ちょうだい」と手を出してもじらすように歩き回る。
 そういえば…ニッキーは若い頃、鉛筆を噛むのが好きだった。木のキーホルダーも壊されてしまったことがあるから、多分木の匂いがたまらなかったんだと思う。ほとんどいたずらをしたことのないニッキーが、鉛筆だけは何度か噛んで叱られたっけ。きっとこれも、同じ木の匂いがするんだね。
 夢中でボールを追いかけたり、タオルに食らいついたりすることは、もうしなくなってしまったニッキーだけれど、昔と同じように木の匂いのおもちゃが好きだったなんて。昔のニッキーに再会したようで、こんな小さなことが嬉しかった。


(C)Yuki+Nicholas, http://blackdog.whitesnow.jp/