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くろいぬ日記

黒犬ニッキーと相棒の日々、時々猫も登場?

2004年10月の日記

■2004/10/31 (日) 面会

 電話で獣医さんが「おとなしい子だし、飼い主さんが面会に来ても暴れたりはしないでしょう。大丈夫ですよ」と言ってくれたので、とにかく会いに行った。
 常に複数の獣医とVTの目があるICUの、体格の割に小さなケージ(あまり動かさずに安静を保つため)にニッキーがいた。ぼんやりと座っている。私を見てそっとしっぽを動かしたけれど、目はうつろだ。あんな大変な病気と手術の後だから、脳に影響でもあったかと思うほど、生気のない何も見ていない目だった。
 黒い暴走機関車の異名をとるニッキーが「おとなしい」と言われるなんて変だと思ったら、こういう状態だったのか…。寝ようとして、エリザベスカラーがケージに当たると嫌がってやめてしまうけれど、座って身体を支えているのも辛そうだ。何も言わずにニッキーが耐えているのが、見ていて痛いほど辛かった。
 院長が来て、簡単にニッキーの状態を説明してくれ、「この子は気を遣ってくれますね。動きたくないはずなのに、誰かが来ると立ち上がって迎えてくれます」と言った。「さっきまで寝ていました。飼い主さんが来て、一生懸命起きているんですよ」
 寝ていていいよ、と何度言っても寝ないニッキーに、せめて嬉しい言葉をかけてやりたい。「おうち」と言うと帰りたがるだろうし、「ごはん」はまだ絶食絶水だから言えないし、「行こうね」もかわいそうだし。「ありがとう」「大好き」「かわいいね」などの言葉をぶつぶつ話しかけた。いちばん反応がよかったのがやっぱり「Good boy!」「Good job!」。しっぽを振ってくれた。大事な時期に英語で訓練を受け、英語のコマンドで仕事をして来たから、楽しい印象が強く残っている言葉なんだろう。
「そろそろ寝かせてやりましょう」院長に言われて、私はやっとその場を離れた。ニッキーはいつものように後追いすることもなく、座って私を見送った。いつものニッキーとあまりにも違う様子で、改めて、胃捻転と手術がどれだけ大変だったのか、どんなに身体に負担があったのかを痛感した。
 胃捻転は大型犬には多いのだから、普段からもっと気をつけていればこんなことにならなかったかも…私がもっと早く病院に駆けつけていれば、ニッキーの負担は少なかったかも…考えても仕方ないけれど、帰宅してから何度も涙がこぼれた。


2004/10/30 (土) ↓10月30日の出来事・その1〜4 について

 読みにくいですが、番号順に読んでください。
 最初に言っておくと、ニッキーが胃捻転を起こした日です。大型犬に多く、死亡率が高く、早急な対応が必要な病気ですが、応急処置、手術とも成功し、11月6日には無事に退院しました。心配せずに読んでくださいね。
 ニッキーが退院し、やっと一安心したので、思い出しながら書きました。(11月7日記・ニッキーの相棒)


■2004/10/30 (土) 10月30日の出来事・その4

 3時間後、手術の成功を知らせる電話が入った。何と答えたか覚えていない。実際には手術後の管理が重要でまだ安心はできないけれど、とにかくここまでニッキーは無事だった。本当に嬉しかった。

 痛みと恐怖で震えながら、まず私にくっつくことで耐えようとしてくれたニッキー。呼びかけた私を信じて、自力で車に乗り込んでくれたニッキー。こんなに信頼してくれたからこそ、どうしてもその信頼に応えなければならなかった。助けてもらえなかったという気持ちで死なせるわけにはいかなかった。
 もしニッキーがあの時倒れていたら。パニックを起こして私の声が聞こえなかったら。ニッキー自身が頑張ってくれたから、私はニッキーを病院に連れて行くことができた。へなちょこニッキーの意外な芯の強さにちょっと驚いた。
 トレーナーが仕事を放り出して駆けつけてくれた他にも、一段落着いてから報告したら、たくさんの友達から励ましのメールや電話があった。こうしていろんな人に愛されることもまた、ニッキーの強みかもしれない。
 もちろん、ニッキーの命を守るために力を尽くしてくれた人たちのおかげだけれど、ニッキー本犬もよく頑張ってくれた。戻ってきてくれてありがとう!
 強く優しく、愛情に溢れたニッキー。この子のすばらしさを、この子がそばにいてくれる幸せを、そしてこの子と共に生きていくために大切なことを、もう一度痛いほど感じた出来事だった。

 ニッキーを失うかもしれないと思った時、私は後悔した。「周りの目があるから」「介助犬だから」とあれこれ気にして、必要のないノーを繰り返し、本当の想いを充分にニッキーに伝えていないような気がしたから。
 他人の見た目なんてどうでもいい。私の大切なニッキーを、誰よりも私が認めてあげよう。どんな小さなことにもグッド! と伝えてあげよう。誰が何と言っても、私にとってはニッキーが世界一の相棒なのだ。このすばらしい相棒に、私も全力で応え続けたい。私とニッキーの、これからも続くふたりの暮らしの中で…。


■2004/10/30 (土) 10月30日の出来事・その3

 野地トレーナーから電話が入った。「脾臓を巻き込んでいなかったか聞いて」「手術が必要だからいつするのか聞いて」「院長はいつ戻るの? 夜間の態勢は?」などなど次々言われるとおりに獣医師に質問した。獣医師が断言するとそれ以上は聞けない私に、トレーナーは「しっかりしろ、飼い主がちゃんと聞かないと」と言い、最後には直接獣医師に電話を代わった。
 ニッキーの命に関わる事態で、私の精神状態は普通ではない。冷静に質問することも判断することも多分できていない。それでも、獣医師が「入院させて様子を見る。手術は必要ない」というのが不安だった。開腹して内臓の状態を確認し、整復し、再発防止の手術もして欲しい。
 とにかくトレーナーが、横浜から車で向かってくれていた。待合室に居座ってトレーナーを待つ。別の病院に移すにも私ひとりでは無理だ。30日の土曜日で雨、渋滞だった。3時間以上待って、トレーナーが到着した。少しでも早くと途中から車をスタッフに任せて電車に乗り、傘もささずにずぶ濡れで駆けつけてくれた。「財布も免許証も忘れて来ちゃったよ」本当に取るものも取りあえず来てくれたことで、ニッキーのことを本当に大切に考えてくれるんだと、何より嬉しかった。
 不在だった院長も戻り、すぐに手術のできる市内の大きな動物病院に連絡してくれた。トレーナーが必要事項をもう一度確認した。渋滞で遅れていた車でスタッフのOさんが到着し、ニッキーは点滴を外されて車の後部シートに寝かされた。その隣に私が座る。応急処置直後は冷たかったニッキーの身体が、温かかった。
 獣医師が何人もいる大きな動物病院に到着した。待合室でトレーナーに抱えられ、私を見て、ニッキーは少しだけしっぽを振った。今日初めてのしっぽ振り。少ししてニッキーは手術室に連れて行かれた。また少しして私が診察室に呼ばれ、胃拡張捻転症候群という正式な病名と、今の状態、これから受ける手術について説明された。トレーナーもスタッフも一緒に聞いてくれた。開腹して内臓の状態を見て、捻転に巻き込まれた部分を整復し、壊死した部分は切除する。胃は捻転を再発しないように固定する。
 全てを任せて、私たちは病院を出た。できるのはここまで、後は祈るのみ。最初にニッキーが異常を訴えてから、7時間経っていた。


■2004/10/30 (土) 10月30日の出来事・その2

 急いでタクシーを頼んだ。ニッキーのお腹はみるみる膨らんで、とても大きくなっていた。部屋の前でタクシーを待つ間、痛みが強いのだろう、アパートの建物の横の狭いところに隠れようとする。そんなところで倒れられたら、犬を抱えられない私には助けられなくなる。
「ニッキー、死んだら駄目だからね。絶対助けるから、大丈夫だから、お願い、カム、カム」私の声は悲鳴だった。ニッキーはそれでも、ゆっくり私のところに来た。座ろうとしてはやめ、歩き出そうとして戻り、少しでも楽な姿勢をしようとしている。雨だったから、ニッキーの身体は濡れ、歩くとすぐ水たまりに足が入ってしまう。
 タクシーが来た。私は精一杯明るい声でニッキーを励まし、ニッキーはふらふらしながら自力で車に乗り込んでくれた。いつもどおり足元に伏せる。携帯電話で、動物病院にこれから向かうことと、一刻も早く処置して欲しいことを伝えた。20分後に病院に着く。タクシーの運転手さんに中の人を呼んでもらい、先にニッキーを迎えに来てもらった。時間のかかる私は後回しだ。
 入り口の階段をどうにかクリアして私が病院に入ると、ニッキーはレントゲンと血液検査を受けていた。その時間が長く感じた。レントゲンで胃捻転が確認された。軽い麻酔をかけ、口から管を入れて胃の減圧と胃洗浄が行われた。未消化のフードやガスを吸引する。私は診察室から奥の処置室を一生懸命覗いていた。ニッキーの身体はまったく動かない。しっぽがだらりと台から下がっている。
 嫌な顔はされたけれど、そこから「ニッキー、頑張って、頑張って」と声をかけ続けた。聴こえようと聴こえまいと、ニッキーに伝え続けたかった。ニッキーを必要として、何が何でも助けたいと思っている私が、ここにいることを。
 管を入れたことで胃のねじれは一応解消され、内容物もガスも全て出た。最初に撮ったレントゲンと処置後のレントゲンを並べて、そう説明を受けた。
 とにかくニッキーは生きている! 応急処置は無事に終わった。


■2004/10/30 (土) 10月30日の出来事・その1

 まずは前日の話。出歩いたり、人と会ってばかりだった後で、久しぶりにニッキーとの日常に戻った気がしていた。
 他人からの見た目では、ニッキーは満点ではない。デモは苦手で、疲れていれば拒否することもあった。でも、日常に戻ると、ああ、この子はいい介助犬だなぁ、と思う。必要な時にさっとトイレのドアを開けてくれ、携帯電話を取ってくれる。周りの目ばかり気にして、ノー、と言いすぎたね。グッド! と褒めなければならないことが、それもごく当たり前の時間に、どれほどちりばめられているか。
 明け方に散歩に行った。ニッキーは、段差で車椅子につけた紐を引いて助けてくれ、コンビニで買ったものが車椅子の後ろに落ちた時、くわえて持ってきてくれた。家に帰って、私が膝に乗せていた缶コーヒーを、部屋まで先に運んでくれた。
 帰宅してすぐにフードをあげた。遅い夕食、朝が少なかった分やや多め。ニッキーはいつもどおり食べ、それからいつもどおり私のベッドの足元に乗って寝た。

 6時間後に私が起きるとニッキーも起き上がった。しばらくして、吐こうとして吐けないような動作を何度か見せた。いつもの場所に出すと排泄(小だけ)して、部屋に入るとすぐに自分のハウスに行って丸くなった。元気がないし、食欲もない。気になって呼んでみたら、立ち上がって吐こうとしながら、足が震えていた。
 散歩で拾い食いはなかったけれど毒物を食べたのかと考えて、動物病院に電話した。いちばん近い病院は休診、2番目に近い病院も今は対応できないと言う。3番目のあまり知らない病院に連絡する。ニッキーが私の足に身体をぴったりつけて座った。辛そうに目を閉じて、身体を押しつけてくる。全身が震え続けている。
「大丈夫、大丈夫だからね。私がいるからね」話しかけながら撫で続けた。
 ずっと座っているのも辛いのか、ニッキーが立ち上がって部屋の隅にゆっくり移動した。その時、お腹が少し膨らんでいるのに気づいた。吐く動作を繰り返していたから気になっていたけれど、やっぱり胃拡張か胃捻転のようだ。大型犬に多い命にかかわる症状。何より早い対処が必要だ。少しの遅れで死んでしまう犬も多い。
 間に合わせなくては。ニッキー、頑張って!


■2004/10/21 (木) 初めての国内線

 東北でのイベントに呼ばれ、AWDSAのスタッフOさんと一緒に、羽田から青森まで飛行機で移動した。成田からアメリカやカナダに飛ぶのには慣れているニッキー。でも、日本の航空会社、日本の飛行機は未経験。
 例えば、某アメリカの航空会社は、アシスタンスドッグ同伴の乗客には隣の席をひとつ空けてくれる。犬が大嫌いだったりアレルギーがある人が隣に座らないように、という配慮と同時に、犬もゆったり休めるようにしてくれるのだ。「ワンちゃんに毛布をお持ちしましょうか?」「お水のボトルを置いておきます。空調でのどが渇きますから、ワンちゃんにあげて下さい」などと、スチュワーデスさんも犬に気を遣ってくれる。
 犬と暮らす文化が日本より深い欧米の人たちは、訓練された犬も犬として当たり前の疲れやストレスを感じる、ということを自然に理解している。その点日本では、まだまだ働く犬には完璧が求められる。疲れたからと足を崩して通路にはみ出したら、「他のお客様の迷惑」と言われてしまう。
 アメリカの飛行機に慣れているニッキー、日本の飛行機でリラックスし過ぎて失敗したらどうしよう…。
 ニッキーは、前の座席の下に肩まで突っ込んで、私とOさんの足元にうまく納まり、それなりに快適に寝られる姿勢を確保した。私の心配をよそに落ち着いたグッドマナー。通路にはみ出たしっぽは、Oさんが足でガードしてくれた。
 やがて、ちょうどニッキーの耳元の壁から大きな音が響き始めたので、ニッキーが立ち上がってしまうかと思ったけれど、なんとニッキーさん、飛行機が動き出すなり、その音と振動で「これは長い時間かかる、寝るに限る乗り物」と思い出したのか、あっという間に本気で寝てしまったのだった。私の心配ってなんだったの?
 どこの国の飛行機だって大差ない。ニッキーにとっては同じもの。日本もアメリカも関係なく、堂々と寝ているニッキーを見ていたら、何だか気を張っていた自分がばからしくなってしまった。少しニッキーの図太さを見習おうかな…?


■2004/10/18 (月) 楽しそう

 眼科で診察の日。病院はいつもよりすいていたけれど、やっぱりいろんな人に声をかけられた。にわかセラピー犬ニッキーさん、大活躍。
 ニッキーと出会う前から、私の好みは「ラブラドールなら黒!」だった。縁あってパートナーを組んだニッキーが黒ラブだったのは嬉しかったけれど、黒い子はそれだけで「精悍」に見えたり、「怖そう」と言われたり。よくも悪くもニッキーの本来の性格を誤解されてしまう。
 今日は撫でてくれた人が、「真っ黒で大きいのに、人懐っこいなぁ。こりゃ絶対噛んだりしないだろうな」と言ってくれたので、なんとなくほっとした。「結構間抜けな顔だ」にはショックだったけど。
 診察室ではいつものF医師も、「かっこいいね、この犬」と言い、ニッキーは得意げにしっぽを振りながらダウンした。「黒い子はかっこいいけど、この子は白髪もいっぱいありますよ。あと2年ぐらいで引退です」と私が言うと、F医師が「引退は、年齢で決まっているの?」と聞く。
「うーん、元気に10歳を迎えたら、後は体力や集中力の問題だけど…。元気なうちに引退して楽しい生活を送ってもらう方が…」ニッキーの引退時期やその後のことについては、今から気になりつつ結論の出せない私。やや歯切れ悪く答えた。
 すると、決して犬に詳しくはない(介助犬の基礎的な知識や接し方は調べたらしく、ちゃんと知っているけれど)F医師が、意外にもこんなことを言う。
「そうかなぁ。この犬は仕事が楽しいんでしょ? 今も楽しい生活だよ」
 確かにその通り。私とニッキーをよく知っている友人達やトレーナーも、同じことを言う。「ニッキーは仕事だなんて思っちゃいないよ。仕事も含めて、一緒にいることや、一緒に出かけることや、今の生活を楽しんでるんだよ」と。ニッキーの働く姿を見て「楽しそう」と感じてくれる人が、ここにもいたことが嬉しい。
 仕事をする犬は辛い思いをしている訳ではない。障害者を助けることは重く苦しいことではない。障害を持つ人はそれを悲しんでいるばかりではない。気楽に楽しく働くニッキーと、同じく気楽に楽しくやっている相棒を見て、そんな風に感じてもらえるかもしれない。
 だから気楽に楽しく、このまま間抜けな顔のニッキーで行こうね!


■2004/10/15 (金) 今日も…

 昨日に続いて、国際福祉機器展に。今日は介助犬ケンちゃんと訓練犬イーちゃん、訓練所に里帰りしていたアイちゃん、そしてニッキーの4頭の犬が会場に集まった。イーちゃんとアイちゃんはイエローラブ、ケンちゃんはチョコラブ、ニッキーが黒ラブで3色勢揃い。
「かわいーい♪」と撫でようとする人も「介助犬? どういうことをするの?」と質問する人も、以前より少なくなった気がする。マスコミや各団体の活動を通して「介助犬とはこういうもの」という知識が浸透した半面、一部の情報で自分には使えないと判断して、興味を失ってしまう人も多いんだろうな。例えば、介助犬は車椅子の人のためのもので、歩ける人には適さないと誤解している人も多い。ある意味、偏った情報が人を排除している。
 ケンちゃんのパパと一緒に、会場のすみっこでそういう現状を憂えていた。犬はラブラドールだけではないし、いろいろな性格の子がいる。訓練しだいで出来ることは本当にたくさんあるのに、その可能性が知られていない。もっともっと、私たち自身がそういうことを伝えていかないと。
 この場で3色ラブ達に目をとめてくれた人に、生の姿や私達の本音を伝えることも、少しは意味があるはず。という訳で、いろいろ質問をされたりすると、私達は笑顔で対応した。もちろん、最愛の犬達の親ばか自慢も忘れずに。
 ムズカシイことを抜きにして、犬達を見てやってくる人も多い。何しろ「福祉業界と障害者の民族大移動」と言われる機器展だから、いろんな知り合いにも会った。ボーダーコリーの小雪ちゃんのママが来たり、「この子も介助犬? あっ、****?」といきなりフルネームで本名を呼ばれてびっくりしたら、中学時代の友人だったり。
 そんな訳で結局今日も、同窓会のようなオフ会のような親ばか犬自慢大会のような感じで過ぎていったのだった。

 かくして、先週の土曜日、台風と共に始まった怒涛の一週間は終わった。オフ会(?)三昧であわただしく過ぎただけのようでもあるけれど、ま、いいか。とにかく沢山の人と出会ったり、再会したり出来て、楽しかったから。これもまた、ニッキーという犬がつないでくれた人の縁。


■2004/10/14 (木) また? オフ会

 9日から13日まで信州でイベントに参加して、結構疲れた…と言いながら、毎年恒例の国際福祉機器展を見に行った。今回は新しく作る車椅子のメーカーや機種を選ぶのも目的だったけれど、某サイトのオフ会の待ち合わせがメインの目的だったかも。
 信州でのイベントも、毎年IAADPで会う人達に再会してゆっくり話せるからと参加して、知っている人や懐かしい人に会っては、日本語や英語や手話でおしゃべりするという、私にとっては一大同窓会兼オフ会のような楽しみがあった。意外な知り合いに会場で会ったりもした(いちばん驚いたのは、大学の同期生のお母さんがボランティアで参加していたこと)。だから、オフ会続きという気がしなくもない。
 某サイトの管理人さんは、思ったとおり私と同世代の魅力的な女性。そして思った以上に強烈な車椅子での登場。「ショウガイシャ業界」はいたって狭いので、管理人さんと、同じ協会の介助犬ケンちゃんのパートナーさんが知り合いだったのも楽しいハプニングだった。管理人さん一押しのドイツ製車椅子に試乗して、通販番組のように驚いてから、いざオフ会へ。
 車椅子5名+徒歩2名+犬1名のメンバーで、ほとんど全員が初対面だけれど和やかで、楽しい宴会となった。みんなあったかい人達だったから、楽しい時間が過ごせた。ネット経由で知り合った人と初めて会う時は、相当不安なんだけど、そういう不安を一気に解消してくれる今回のメンバーだった。
 今回は同じような障害の人が多くて体験も似ていたようで、ちょっとしたこと、例えば「無理に歩いていた頃に比べて、車椅子になったらほんとに楽だね」なんてことが、何の説明もなく共感できる。「第五腰椎が…」って言うだけで、全員意味が分かる。
 障害がどうのとかではなくて、いろんなことにそうやって共感できる人達と、ふつーに話が出来る楽しみも、時々必要だよね。友達がいて、おいしいものがあって、楽しい話が出来れば、それが何より。


■2004/10/11 (月) 個性と信頼

 土曜日にエドたちと合流してイベントに参加した私たち。この日は、今までネット上でお話ししていたえび・じぇい家のおとうちゃん・おかあちゃんと盲導犬ジェイドも熊本からやってきて(高齢のエビちゃんはお留守番)、初のご対面となり、すっかりオフ会の乗りでさらに楽しんでしまった私だった。
 体高75センチ、堂々たるドーベルマンのジェイ姫は、長い足で歩く姿がサラブレッドのよう。女の子ながら雄々しく凛々しい(と言ったら失礼?)。
 おとうちゃんはこれまでに5頭の盲導犬と数カ国を歩いてきたベテラン。日本語が話せないのにどんどんひとりで行動してしまうのを見ていると、もちろん盲導犬と歩くことに慣れているせいもあるだろうけど、ジェイドを信頼しているんだなぁ、と妙に納得した。
 ジェイド以外にも、会場にはたくさんの盲導犬と少々の聴導犬と介助犬がいた。どの犬にも個性がある。おおらかな子と神経質そうな子、おとなしい子と活発な子、几帳面に壁に沿って歩く子と最短距離で進む子、楽しそうな子と緊張している子。
 もちろんどの子も仕事をしている子だから、攻撃性のある子や人間不信の子はいないし、全員がきちんと訓練されて落ち着いている。それでもやっぱり、1頭1頭の個性が見えて面白い。
 その夜、居酒屋での懇親会で、2頭目のパートナーと暮らしている人が「1頭目の子は真面目で優等生、でもこの子はやんちゃで…」なんて話していた。犬をパートナーに選んだ人はそれぞれに、その犬の個性を受け止めて共に暮らし、その個性に合わせた付き合い方と使い方をしている。信頼するにはまず相手を理解して受け容れること。やんちゃな子を無理やり優等生に仕立てる必要なんてない。
 みんな「うちの子は落ち着きがなくて…」「こんな癖が直らなくて…」などなど、我が子の欠点を話す時の方が、何だか嬉しそう。きっと全員が内心「でもこの子が世界一の犬だけどね」と思っていたんだろう。
 どんな個性を持っていても、パートナーにとっては、世界一の、命を預けるほど信頼する存在。そこだけは同じなんだよね。


■2004/10/09 (土) 日本なのに

 怒涛の一週間の初日となった土曜日は、台風が来ていた。電車が止まったので、参加予定だったイベントも諦めておとなしく寝ていようと思ったけれど、同じイベントに招待されていた海外からの人たちのバスに拾ってもらうことになった。
 海外の人たちと言っても、毎年のIAADP(補助犬使用者の国際団体)の会議で会う人達なので、顔見知り。段取りやら何やらで、日本のスタッフにはぴりぴりした空気が漂っているのに、海外チームはとても楽しげな遠足状態だった。
 IAADPの会長エドと奥様のトニー、カナダのデボンの3人が盲導犬使用者、ジルとジャニスが聴導犬使用者、イギリスから来たアランが介助犬使用者。イギリスの検疫の関係で、アランの介助犬エンダルは一緒ではなかったのが残念だけれど、ニッキーを含めて6頭の犬がいた。
 このメンバーでの移動は壮観!  耳は聞こえなくても目の見えるジルやジャニスが先を歩き、その後を「フォロー」の指示で盲導犬たちがぞろぞろついて行く。聞こえない言葉を車椅子のアランがフォローする。アランが何かを落としたり、段差があったりしたら、目や耳の不自由な人たちの誰かが手を貸す。日本語が分からなくて困ったら、私も手伝える。
 当たり前だけれど、障害者とか健常者とかの区別は必要ない。誰かが出来ないことを誰かが手伝えばいい。犬連れ集団は実に堂々と行動していた。カレー屋で「ライスだけ」と注文したり、日本人から見たら珍しいこともたくさんあったけど。
 久々に英語で話し、そんな集団にくっついて行きながら、人と人の隙間を通り抜ける時に「エクスキューズ・アス…」とつい英語で言ってしまった。普段しゃべらない英語を無理に話すと、その後日本語への切り替えに時間がかかる情けない私。
 さらに、外国人に混じって、黒いめがねで日本人そのものの顔立ちが隠されている私に、同じく日本人そのものの顔立ちの人が「ハロー、ナイスドッグ!」なんてカタカナで声をかけてくる。ここは日本のはずなのに???
 いろんな意味で留学時代に戻った気分のひとときだった。


■2004/10/06 (水) 応援

 さわやかな秋晴れ! ここ数日待っていた天気! 当然散歩に出かけた。ニッキーは久々の散歩でちょっとテンションが上がって、少し早足になった。
 近くの空き地まではハーネスを着けずに行き、好きなだけ匂いかぎをさせ、それからハーネスを着けて気分を切り替える。
 途中左側に側溝のある道がある。左目がほとんど見えない私は右側を通る車と人に気を配り、左側はニッキーにまっすぐ歩いてもらってハーネスに軽く手を添え、側溝に落ちないように道の端を歩いた。
 ニッキーが少し右に進む。少し先に止まっている車があったから、手前から方向を変えて避けた。左目の代わりをしてくれたニッキーを「グッド!」とほめ、別の車や人が来ないかどうか、右目と耳で確認して、「オーケイ、フォワード(進んで)」と声をかける。
 その時。右側の家の庭から「モードーケン! モードーケン!」という子供の声が。今は確かに盲導犬みたいなことをしていたし、子供だから、モードーケンもカイジョケンも一緒に見えるんだろうな。ま、いいか。
 子供たちの盲導犬コールに混じって、母親の声がした。きっと「頑張ってお仕事をしているんだよ」とか言ったんだろう。子供ふたりは、庭のフェンスみたいなところに張り付いて、「がーんばれ! がーんばれ!」と声を揃えて応援し始めた。
 子供たちに会釈して、少し車椅子の向きを変えてニッキーの顔を見せてから、私たちは大きな通りに向かった。遠ざかると今度は、リズミカルな声援から「がんばれぇ! がんばれーぇ!」と絶叫に変わって、子供たちの応援が続いた。
 子供たちの叫びが聞こえなくなってからニッキーに言った。「頑張らなくていいよ、気楽に楽しんで行こうね」と。でも、子供たちの大声援は、やっぱり嬉しかった。
 もう少し大きくなったら、使役犬にかまってはいけないと教わるだろうけれど、そうやって頭で理解する前に、働いている犬を見て大声で応援しようとした、その気持ちもなくさないで欲しい。

 ところで、昨日私を感動させたボール。私が元気になった今日は、いつもどおり、大事なボールをしっかりくわえて意地でも放さず、ちょうだい、と言っても聞こえないふりのニッキーだった。無理やり取ろうとしたら、お尻を向けてガードしてくる。ああ、昨日感動しちゃった自分が情けない。


■2004/10/05 (火) お見舞い?

 雨続きで散歩もお出かけもなし、つまらなそうなニッキー。私は私で、こういう天気の時は膝や背中が痛んだり、足が動きづらくなったり、かなり調子が悪い。気温が下がったせいか、風邪でもないのに咳がでると止まらなくなったりもする。
 立ち上がったり姿勢を変えたりするのが辛いから、ニッキーのちょっとしたお手伝いがありがたい。「ゲット・フォン(電話を取って)」「クリック・ライトオフ(紐を引いて電気を消して)」と、結構いろいろな仕事を頼んだ。
 甘えん坊ニッキーは、私の調子が悪いと余計にべったりくっついてくる。夜「ゲット目薬」と頼んだすぐ後に、私が咳きこんだら、目薬を取りに行きかけたニッキーが慌てて戻ってきて、座椅子に座った私の身体を前足でがしがしして、顔をなめてきた。彼なりの心配の表現?
 咳が長く続いたので、治まった後も頭がぼーっとしてしまい、私が目を閉じていたら、ニッキーは奥の部屋に行った。何だかひとりで遊んでいるようだった。退屈させてしまったかな、ごめんね…と思っていたら。
 ニッキーは戻って来て、私のひざにぽとんとテニスボールを落としてくれた。いつもはそんなことしないのに。
 ニッキーにとって、食べられないものの中では最も価値があるらしいテニスボール。時には「ちょうだい」と言ってもなかなか渡してくれないくらい大好きなテニスボール。
 お見舞いのつもりかな。それとも、「ボールで遊んで元気出しなよ」ってことかな。一瞬しんどさを全部忘れて、ニッキーを抱きしめた。
 他にもニッキーのおもちゃはあり、ボーンとコングが部屋の中に出してあった。でもニッキーは、そのふたつより大事なボールを、わざわざ箱から出して持ってきてくれたのだ。
 昔々、ミッションスクールの生徒だった頃、「2番目や3番目に大事なものを人にあげることはできても、いちばん大事なものをあげるのは大変なこと。それができるのが愛」と牧師先生に教わったことがある。
 ありがとう、ニッキー。
 汚いボールを前に、ちょっとうるうるしてしまった。


■2004/10/03 (日) 雨天中止

 本日参加予定だった某県でのイベント、雨天中止。東京も雨である。
 このイベントの話を持ってきてくれたのは、ネットでやりとりをしていて、まだ会ったことのない友人。彼女と彼女の愛犬にも会えるかと思っていたから、ちょっと残念。
 先日、イベントを担当する某県の保健所から「用意する冷蔵庫は…」と確認の電話があり、私は大慌てした。講演だけかと思っていたら、冷蔵庫から飲み物を持ってきたりするデモンストレーションもするらしい。
 場所は屋外で、ステージの周りは草地と聞いている。デモなんてほとんど経験のないニッキーは、そんな場所に冷蔵庫があっても「???」になるかもしれない。草地を見たら走りたがるかもしれない。
 小心者の私は「失敗したらどうしよう」と、例によってトレーナーに相談した。
「見栄えを気にすることはないよ。デモができなくても介助はできるんだから、失敗したっていいじゃない」
 いつもどおり言う先生に、私は「だって、きちんとできるところを見せたいんだもん」と答え、「見栄っ張り!」と突っ込まれた。
 でも。最後に先生が言ったひと言で、やる気になったんだよね。
「ニッキーに裏切られたことはないでしょ」と。
 そう、確かに、ニッキーに裏切られたことは一度もない。普段呑気にへらへらしていても、助けて! という場面では必ず期待に応えてくれたし、期待以上のこともしてくれた。
 私がスロープと間違えて階段に進んでいった時に、身体で遮って助けてくれたこともあった。トイレで倒れた時も、散歩中に転んだ時も、車椅子がパンクした時も…ニッキーが私を裏切ったことは本当にない。乗車試験や認定審査だって、いざとなればきっちり結果を出した。
 きっと大丈夫。それに、もしデモを失敗したって、今さら私のニッキーへの信頼は揺るがない。いつもどおり楽しめばいいよね。…と思っていたら、中止の連絡が。ニッキーと顔を見合わせて、二度寝を決め込む日曜日となった。それもまたよし、かな?


■2004/10/02 (土) ニッキーと似てる?

 協会でニッキーのシャンプーをしてもらった。そしてその間私は、先日協会にやって来た新入りの犬と遊んでいた。人間が好きで、おとなしい黄ラブの女の子。足が長くて、ニッキーより体高のある、大柄な子だ。
 顔立ちも体型もニッキーとは違うけれど、「もっと撫でて♪」の催促の仕方が同じだなぁ。それになにより、耳が大きなところが。ニッキーもラブラドールとしては耳が大きすぎるのだけれど、この子はさらに大きな耳をしている。後ろから見たら、耳がシルエットからはみ出している(?)くらい。
「かわいいねぇ、この子。ちょっとニッキーに似てるね」と言ったら、痔先生いわく「**ちゃんの飼い主もこの子を見て、**ちゃんに似てるって言ってたよ」
 私はその**ちゃんも知っているけど、あまり似ているとは思わない。足が長いところが似ていると言えば似ているけど。
 飼い主は誰でも「かわいい」イコール「うちの子に似ている」ということなのかもしれない。新入りちゃんは、人懐っこくて優しい表情の、誰からも可愛がられるタイプ。そしてみんな、「かわいい」と思うと「うちの子に似ている」気がしてしまうんじゃないかな。
 これから訓練に入って「介助犬になりたいかどうか」を見極めていくことになる新入りちゃん。介助犬になればユーザーさんのところへ、ならなければ家庭犬として可愛がってくれる家族へ、いずれ旅立っていく。どこへ行ったとしてもきっと、新しいパートナーや家族に「この子がいちばん可愛い!」と言われるだろう。
 しばらくは訓練を楽しんでね。そして幸せになってね。かわいい新入りちゃん。


(C)Yuki+Nicholas, http://blackdog.whitesnow.jp/