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くろいぬ日記

黒犬ニッキーとその相棒、ささやかにしあわせな日々。

2004年11月の日記

■2004/11/28 (日) 遊んだよ

 抜糸から丸2週間が経過した。「激しい運動を避けてくださいね」と言われた期間が無事終わって、ひとまず安心。だからという訳ではないのだけれど。
 今日は、病気と緊急手術の時に心配してくれた、犬関係のメーリングリストのオフ会。体調がよければ参加してみんなにお礼を言いたいと思っていたので、思い切って出かけた。もうすぐ12月とは思えない暖かさ。ニッキーはいいうんこをし、元気いっぱい。実家から電車を乗り継いで、埼玉の某大きな公園へ。
 留学前からの長い付き合いになる人たちも多い。みんなニッキーの生還と回復ぶりを喜んでくれた。もう1頭、腫瘍を何箇所も摘出したチップちゃんもすっかり回復して、元気に参加していたのが嬉しかった。
 ニッキーは、今日は遊ぶ! と雰囲気で察してハイテンション。到着してすぐハーネスを外し、ただのやんちゃな犬に戻った。広い草地で駆け回る犬たちを見ていたら、ニッキーが「行かせて」と訴えるので、少しだけ参加させてやることにした。若い頃ならともかく、今は無茶な遊び方はしないはず。
 ところが、ニッキーは自分の年齢も体力も考えず、いちばん活発そうなフィールド系ラブ達の集団に参加。体力のあるAさんが訓練用のダミーを使って、活発な犬達をハードに遊ばせる。とろいニッキーも頑張って集団について行き、満足してしっぽを高くあげていた。結構走る。飛ぶ。こけても気にせず犬同士でからみ合って遊び、あっ…若い犬にマウンティングまでしようとして…。元気なのはいいけど、ねぇ…。
 途中で何度か捕まえられて強制的に休憩させられながらも、ニッキーさんは存分に遊んだのだった。犬同士の遊びだけでなく、ひとりで走り回ったり、私と一緒にボール遊びも、坂道を利用して駆けっこ(?)も楽しんだ。
 10歳のチップちゃんも病後とは思えない元気さで、焼き芋やお菓子をばっちり狙う集中力もある。みんなに笑われるほどの、チップちゃんとニッキーの回復ぶり。ほんとによかった。

 さらに驚いたのが帰り道。公園から駅まで送ってもらった車の中でうとうとしていたし、JRの車内でもちょっと寝ていたけれど、新宿で私鉄に乗り換える頃にはすっかり元気で、意気揚々としっぽを立てて帰宅した。いつもより元気なくらい。
 思っていた以上の回復ぶりを実感して、それが何より嬉しい。ニッキーから最高のプレゼントを貰った一日だった。


■2004/11/26 (金) 出産!

 昨日とは別の小学校を訪問した。同じように校庭で仕事を披露する。ニッキーさん、今回は問題なくコマンドをこなしてくれたけれど、昨日のように失敗したり時間がかかったりした方が、何故か子供たちの反応はいい。
 最後に子供たちに撫でられたり、先生達と話をしたりしていたら、痔先生の携帯が鳴った。「メイちゃん、産みそうです」の報告に、急いで事務所に戻る。黒ラブのメイちゃんは出産間近なのだ。

 ラブらしくおおらかで元気なメイちゃん。私達が事務所に戻った時は産室で飛び跳ねていたので、まだまだだと思ったら、突然つるんとイエローの子を産み落とした。いきなりのスタート。
 スタッフのOさんがメイちゃんの産室に入って付き添い、痔先生と研修に来ていた学生さんが手伝う。元カメラマンのケンちゃんのパパはビデオと写真の両方の撮影係。私は特に役立つ技能もないので、地味に事務作業をしながら子犬の誕生を見守った。出産は順調。ほぼ一定の間隔で子犬が誕生した。
 出産直前まで跳ねていたメイちゃんだけれど、生まれた子犬に授乳しているうちに母になった自覚が出たのか? 充分初乳を飲んだ子犬を離すとやっぱり心配している。トイレに行きたがるので産室から出したら、おしっこをし、続いてうんこ…と思ったら、子犬だった。「あらら、トイレで生まれちゃった」とみんなで笑った。メイちゃんは、大きな身体をゆさゆさと、急いで子供たちのところへ戻る。
 生まれてすぐに乳首に吸いついて生きようとする子犬も、全力で子犬を産み、守ろうと頑張るメイちゃんも、すごい。メイちゃんは結局、次々に9頭を産み、さすがに疲れて10頭目でちょっと時間が開いたものの、11頭を無事出産した。
 母は偉い。母は強い。女性はやっぱり強いんだ。出産現場もOさんを中心に女性たちが仕切り、特に人間の出産と子育てを経験した人達は見事。男性の痔先生は使い走りでお弁当や犬用ミルクを買いに行かされていた…。
 わが雄犬ニッキーはといえば。子犬誕生の感動的な瞬間、犬も人間も全員がメイちゃんの産室に注目していたのに、何故かひとりだけ、一生懸命あらぬ方を見ていた。子犬の産声を猫の声と勘違いして、いるはずのない猫の姿を探していたのだ。
 もう…男って。いや、ここまで情けないのはニッキーだけ?


■2004/11/25 (木) ハーネスに復帰

 月曜日には私の通院に同行し、少しずつ職場復帰しているニッキー。今日は1ヶ月ぶりにいつものハーネスを着けた。ハーネスに自分から飛び込むニッキーさん、外出が嬉しいんだろう。
 介助犬ケンちゃんや災害救助犬のエル君と一緒に小学校を訪問。校庭で、デモ用のドアの取っ手を回して開けるのと、紐を引いて冷蔵庫を開け、中のボトルを私の膝に渡すのが今日の役目。
 犬にとっては屋外に突然現れる冷蔵庫と自宅の台所にある冷蔵庫は違う。予想通りニッキーは、最初に「冷蔵庫」と言われても冷蔵庫を通り過ぎ、紐をくわえるまで時間がかかった。ドアも同じ。
「ほら、犬が迷っていても飼い主さんは慌てませんよ。絶対に出来ると信頼してるから」マイクを持っていた痔先生は、多分子供たちではなく私に向かって、そんなことを言う。だからにこにこしたままニッキーに声をかけ直した。
 ニッキーは、空気の匂いを嗅いで、きょろきょろして、自分のいる場所に納得してから、ゆっくりと冷蔵庫を開け、覗き込んでボトルを取り出した。ドアもゆっくり開け、「閉めて」と言ったらドアの向こう側にゆっくり移動。その間にドアは風で閉まってしまい、子供たちに笑われながらやり直した。
 マイペースにやっているニッキー。それでも、仕事を嫌がっている様子も叱られると思っている様子もないから、まあいいや。久しぶりのハーネス、そして遊んでいるような余裕(?)、頼もしかったよ、にっちゃん。

 夕方には、総合学習の中学生たちから、約束どおり電話がかかってきた。「ニコラスと暮らして、助かったことは?」「大変だと思うことは?」使用者の体験を聞きたいとのことで、いくつか質問される。
 最後の質問は、「介助犬ニコラスと暮らすのに、いちばん大切なことは何ですか?」
「ニコラスを信頼することです。ニコラスがちゃんと私を助けてくれると、信じることがいちばん大切だと思います。信頼されれば、犬もやる気になります」
 本当は、私とニッキーの個人的なつながりでなく、社会的なマナーのことなんかを言えば分かりやすかったかもしれない。でも、いちばん大切なことと聞かれて「信頼すること」と反射的に言ってしまった。
 過信せず、甘えず、信頼すること。そしてニッキーの信頼に応えること。いちばんの基本はきっとそこにあると、やっぱり思う。


■2004/11/21 (日) ひと部屋ルール・強化版

 実家とはいえ、自宅にいる時に比べると不自由さを感じる。トイレに行ったり、ティッシュを取ったり、食卓に座ったり、立ち上がったり。そういうちょっとしたことがやっぱりしんどい。ニッキーは眼鏡や携帯電話を運んだり、洗濯物を母に届けたり、靴下を脱がせたり、落とした物を拾ったりと時々仕事をしてくれる。
 しばらくあまり仕事を頼まれなかったせいか、妙に張り切って、電話を走って(滑りながら)持ってくるニッキー…無理はしないようにね。うっかりハーネスやリードの音をさせようものなら、玄関前で喜びの舞を踊り始めるから、こっちも注意しなくちゃ。
 そんなニッキー、今まで以上にべったり人のそばにくっついていたがるのは相変わらず。実家では、家族の食卓から少し離れて、隣の和室にニッキー用の布団がある。でも、眠くても疲れても、なかなか自分の布団に行こうとしないのだ。絶対私と同じ部屋にいようとする「ひと部屋ルール」は実家でも適用されるらしい。実家では父か母が一緒なら私がトイレやお風呂に行っても待っていられるけれど、誰もいない部屋はやっぱり嫌い。
 昨日までは、私がテレビを見ていると、ニッキーはちょっと困った顔をしていつまでも側に座っていた。でも今日は、積極的に自己主張。鼻で私の手をつついては、うるうるの目と動作で「ハウスの部屋に行きたい」と訴える。「オーケイ、ハウスに行きなさい」と指示を出しても行こうとしないで、テレビがCMになるたびに(多分私の様子で分かるんだろう)鼻でつんつん、行こう行こうと催促を繰り返した。
 以前は実家ではひと部屋ルールは適用されなかったはずなんだけど…まぁ、年齢も年齢だから、いまさら分離不安克服のトレーニングをするより、諦めて付き合ってやろう。かくして私はドラマの最後を諦めて、ニッキーと一緒に和室に行き、犬用の布団の隣に敷いた人間用の布団で寝ることに。
 なんとニッキー、私が布団に入っただけでは満足せず、じっと見つめて寝るのを待っている。布団の中で本を読もうと思っていたのも諦めて、電気を消して私がちゃんと布団をかぶったら、やっと丸まって「ふーん!」と大きなため息をついて寝る体勢に入った。
 おそるべし、スーパーひと部屋ルール。寝ながら読書をこよなく愛する私を、無理やり早寝早起きにさせてしまうかも。


■2004/11/19 (金) クレイト

 木曜日に、ニッキーと実家へ。いつもは電車で移動だけれど、ニッキーを労わるべく両親が車で迎えに来てくれた。両親を大歓迎し、大好きな車に飛び乗るニッキー。しかも今日は、健康そのもののいい便を出してくれた。快調、快腸。
 留学中にニッキーの寝場所として使っていた大きなクレイトを、久しぶりに組み立てる。犬を輸送する時なんかに使う箱型の犬舎。実家の猫達に邪魔されたり挑発されたりせずに、ニッキーが落ち着いて休める場所が必要だ。クレイトの中にはふかふかの布団を折りたたんで敷いた。見慣れないものを怖がることの多い猫達は、きっとクレイトには近づかないはず…と思っていたら。
 久しぶりにニッキー兄さんに会ったリズは「ぐるぐるにゃ〜ん♪」と挨拶しながら、ニッキーと一緒にクレイトに入ってしまった。身体も態度もすっかり大きくなったちーちゃんも、半開きのクレイトの扉越しにニッキーと鼻をつんつんしてから、クレイトの上に上って大威張り。ちょびさんは悠然と動じず、怖がりのギギまで結構平気で、クレイトに前足をかけて中を覗きこんでいる。
 うちの猫達は誰もニッキーを怖がらないし、ニッキーが吠えると全員が安全な場所に逃げたりと、ある意味ニッキーを「番犬」として信用している。ニッキーがリラックスして寝ているクレイトは、猫達も「安全」と認識するらしい。猫達に用心棒扱いされているニッキーってちょっと情けない…。
 ニッキーさんは実家では、毎食後クレイトの中で休んでいる。でもそれ以上に、傍若無人に暴れ回るちーちゃんが座布団をかじったり、テーブルの上のパンを食べようとした時に、閉じ込める場所としてクレイトが役立っている。ちーちゃんは反省の様子なしなので、効果はいまいちのようだけど。
 そんな訳で、今日も仲良く平和に、気が向けばクレイトの中で一緒に寝ている我が家の犬と猫達なのだった。


■2004/11/16 (火) ちょっとだけ遊ぶ

 お腹の調子がやや悪いことを除けば、ニッキーの体調はもとどおり。でも今のところ、以前より少ないフードをふやかして食べさせている。あれだけの大変な目に遭った胃腸をいたわらなくては。一応、食事と水の量や食べる時間も考えて与え、食後はゆっくり休ませている。
 でも、ゆっくり休んでくれないのがニッキーである。何かと動き回る落ち着きのなさは健在。くつろいで欲しいから「ステイ」の指示をするのも嫌だな。結局、ニッキーを動かさないためには、私もそばにいて動かないのがいちばんだと気づいたので、ニッキーがご飯を食べ終わったら、私も一緒にぼーっと過ごすことにした。
 もともと何時間でもぼんやりしていられる私にとって、ゆっくりニッキーをなでたり話しかけたりしながら時間を過ごすのは、とてもしあわせ。ニッキーもしっぽを振ったり、前足を私の手にかけて甘えたり、結構楽しそう。

 夕方、散歩に行った。いつも買い物に行くコース。ニッキーは以前より少し静かに歩く。排泄のペースも大体いつもどおりで安心。少し歩いて、ハスキーさんに会った。とってもフレンドリーで、しっぽを振りながら挨拶しているけれど、飼い主さんは「邪魔しちゃ駄目だよ」と歩道の端っこに避けて犬を引き寄せた。
 年中仕事ばかりしているみたいに言われるよりは、今はのんびり散歩するだけの時間、と思ってもらえたほうが、私は嬉しい。だから「いいえ、今はただの散歩ですから…」とつい言ってしまった。そして飼い主さんと確認のうえで、2頭に挨拶させた。
 フレンドリーに挨拶している割に、ニッキーが近づくと少し怖がって下がるハスキーさん。するとニッキーは、遊びに誘う時のような仕草で相手の警戒心を解こうとする。ハスキーさんは安心したのか、リードにつながれたまま少しニッキーと遊んでくれた。
 無理をさせないようにすぐ切り上げたけれど、帰り道、ニッキーは久々にお友達と遊んで楽しかったらしく、しっぽを高くあげて機嫌よく歩いていた。私を見上げる顔も嬉しそうだ。
 一緒にぼんやりするのもいいけど、やっぱりニッキーは活発な犬。少しずついつもの行動的な生活に復帰して行こうね。公園で走ったり、友達と遊んだり、ボールを追いかけたりしようね。ほんの少しだったけれど、久しぶりに楽しそうに犬と遊ぶ姿を見て、私も楽しい気分になった。家でも外でも楽しんで過ごそうね、ニッキー。


■2004/11/13 (土) 抜糸

 抜糸のため病院へ。今回の胃捻転に関しては、これが最後の通院になる。
 ニッキーは病院も獣医さんも好きだけれど、診察台に乗せられるのが苦手。へっぴり腰でびびるニッキーを、同行してくれたサポーター(?)のAさんと私で、なだめ、励まし、「グッド〜!」と盛り上げる。
 獣医さんが、お腹を消毒し、縫っていた糸を切って外し、抜糸完了。そのまま診察台で、ニッキーの耳の中を軽く拭いて、伸びていた親指の爪も切ってくれた。爪切りも完了。爪切りが大嫌いなニッキーさんはじっと固まって我慢していた。
 体重26キロ。若い頃のベスト体重が28キロで、最近は27.5キロを基準にしていたから、結構痩せてしまった。心臓や肝臓の負担を考えてこのぐらいの体重で長生きを目指した方がいいと言われる。これからの健康管理、再発の予防、ドッグフードのことなどなど、気になっていることを確認してから、病院を出る。
 病院の前はいちょう並木で、歩道は黄色い葉で彩られていた。いちょうの下の土のところで排泄させた。柔らかいけれどまあまあなうんこ。心配事はたくさんあるけれど、無理をしないでしっかり元気になろうね。
 私の開放感が伝染したニッキーは、急に元気にいちょうの木の根元を嗅いでみたり、しっぽをぐっとあげて前に出てあるいたりする。叱らなくちゃ、とは思うが、
「ま、いいかぁ…生きてるだけで」
 タクシーの中で、勝手に伏せからおすわりの姿勢になっていても、ついつい、
「いいのいいの…生きてるんだから」
 ……さらに駄目飼い主になってしまったかも。でもいいや。今は生きていてくれるだけで、私のそばにいてくれるだけで嬉しい。
 今まで以上に目で話すようになったニッキーと、ゆっくり話し合いながら、のんびりやっていこう。「ノー!」と言う代わりに、少し余計に時間をかけてちゃんと伝えれば、ニッキーは分かってくれる。後悔したくないから、ニッキーとの残りの時間を大切にしなくちゃ。
 今回のいろんな経験を忘れないためのお守り代わりに、ニッキーのお腹を縫っていた糸を貰ってきた。かわいいニッキーの内臓を守ってくれたと思うと、糸にも光が差して見える。


■2004/11/09 (火) 猫発見

 夜、軽い散歩。この頃、若い頃ほどすんなりと大が出ないので、排泄させるために少し身体を動かす。部屋の前で小を済ませてから、リードを着けて少し歩いた。空き地で排泄させようとしたら、ニッキーはすごい勢いで匂いをかぎまわるばかりで、排泄する気配がない。
 なんと、ニッキーにばふばふ匂いを嗅がれながら、そこには猫さんが丸くなっていた。首輪はない。見知らぬ大きな犬が鼻をくっつけても動かないから、死んでいると思った。でもしばらく見ていたら、猫さんは頭をぐいと持ち上げてこっちを見た。「遊ぼう、遊ぼう!」とニッキーは大喜び。
 11時を過ぎて、気温は下がっている。こんな場所に寝ているなんて病気だろうか。それとも通りの側だから交通事故? どちらにしても、動けない状態で寒い場所に放っておくのは危険だ。携帯電話で近くの動物病院に連絡する。
「猫が動けないようなので、これから連れて行きたいのですが…」当然診療時間外なのに、快く了解してもらった。動けない大きな猫を私が運ぶのは難しいので、まず病院に行ってキャリーバッグを借りることに。
 場所が近いと言うと、獣医さんは車で直接猫を探しに出てくれた。でも、私の説明が悪くて、少し迷ってから獣医さんが到着した時、猫さんはいなかった。近くの別の空き地も探したけれど、結局それらしい猫は見つからなかった。自力で動ける状態だったのだろう、とほっとしつつ、夜遅く猫を探して回ってくれた獣医さんと奥様には、本当に申し訳なかった。「いいよいいよ、ところでニッキー、よかったねぇ元気になって」と笑顔で帰っていったおふたり。本当にありがとう。お騒がせしました。。。

 犬猫関係の緊急時だけは、健常者がうらやましい。自分で猫を抱きかかえられれば、体温や怪我の有無ぐらいは判断できただろうから、他人を巻き込まなくてもよかった。重症だったらその場で保護できただろう。世の中「猫ごときで夜中に…」という人もいるから、誰もが私に力を貸してくれるとは限らない。本当に、本当に、こういう時に自分でどうにかできる力が欲しい。
 ともあれ、でかい犬にちっともびびらない灰色の猫さんが、これからもたくましく生きていってくれますように。


■2004/11/08 (月) ちょっと復帰

 退院以来ずっといつも以上に甘えているニッキー。でも身体的にも精神的にも疲れたようで、よく眠っている。
 食事は、病院で貰った缶詰1缶と、お湯で充分に柔らかくしたいつものドライフード少々を、1日2回。抗生物質と胃の薬、いつものサプリメントも一緒に与える。消化のよいメニューだ。それなのに便が柔らかいので気になって病院に電話をし、整腸薬を出してもらうことにした。念のためにうんこ持参で病院へ。
 お腹が冷えないように、そしてタクシーで抜け毛をなるべく落とさないように、犬友達が「傷を保護できるように」と貸してくれた犬用のセーターを着せ、もちろんまだハーネスは着けなかった。ニッキーが楽なようにリードを緩めてゆっくり歩いた。
 病院ではすぐに整腸薬を出してくれ、便の直接検査だけとりあえずその場でしてくれた。疲れているからだと思うとやっぱり言われ、一安心。ニッキーは院長にすり寄り、受付のおねえさんにも愛想を振り撒き、病院嫌いになった様子もないので、その点でも安心。「まだゆっくりさせて下さい。いずれ仕事にも復帰できますからね」と言われて、仕事のことよりも、安定した健康状態に戻れそうなことが嬉しかった。
 帰る時に自動ドアのボタンを押すのに手間取った。右側にボタンがあれば楽に押せるけれど、左側のボタンに弱い私。「駄目だよ。まだ仕事しないで!」勝手にボタンを押させないように、ニッキーにはそう言った。車椅子の上で身体をひねって、転びそうになりながらボタンを押す。
 すると後ろから、「そのくらいなら、もういいですよ!」と獣医さんの声が。早速もうひとつの自動ドアはニッキーがボタンを押してくれた。
 にっちゃん、やったね! ちょっとだけ仕事に復帰できたよ。久々に高い調子の「グーッド」を聞いて得意げなニッキー。家に帰った時は、何も言わなかったのに落とした鍵をゲットしてくれた。私は「まだ仕事はいいよ!」と言いながらも、いつもの習慣で右手を開き、ニッキーはその手にそっと鍵を渡してくれた。
 ニッキーが仕事を楽しんでいること、何も言わなくても自分にできることをしようとしてくれること、そしてもちろん、仕事をしたがるぐらい元気があること。じーんと嬉しい。
 でも無理はしないで、ゆっくり元気を取り戻してね。私はニッキーの入院中、実はひとりで車椅子で坂を上り、筋力トレーニングに励んでいた。だから大丈夫。


■2004/11/06 (土) 退院!

 退院の日!
 今になって、ニッキー不在の間に大掃除でもしておけばよかった…と思う我が部屋だけれど、今日はごみも輝いて見える(?)。準備をして、タクシーで病院へ向かった。お店で、道で、バスやタクシーで、「ワンちゃんは?」と聞かれるのもこれで最後だ。
 病院に着いて先に支払いを済ませ、薬を受け取ってしばらくすると、あの日と同じいちばん奥の診察室のドアが開いた。がしゃがしゃがしゃがしゃっ! つるつるの床ですべりまくり、へっぴり腰になりつつ無謀にリードを引っ張って出てきた黒犬1頭。引っ張りすぎて首がしまって、何だかすごい声であえいでいる。大興奮状態。
 急いでそばに行ったけれど、簡単には落ち着かない。私の膝に飛びついて顔をなめようとし、目測を誤って? エリザベスカラーをがつっと顔面にぶつけてくれた。痛みと嬉しさで一瞬気が遠くなりそうだった。
 これこそが本来のニッキーの姿だけれど、命に関わる事態と大手術の後にこんなに興奮してしまうと、それはそれで心配。思わず「傷口開いたりしませんかねぇ? 鎮静剤とか必要ですか?」と聞いてしまった。院長は「うーん…動けないで運ばれて来たんだよねぇ…よかったねぇ、こんなに元気で」と笑った。
 再会のキス(というか顔面強打)の後いつもの首輪とリードを着けると、エリザベスカラーの存在をすっかり忘れて、あちこちにぶつかりながら喜びの舞を舞うニッキー。危ないからと一旦カラーを外したら、安心したようにぴったり寄り添って、私の膝に頭をもたせかけた。「よく頑張ったね、グッドグッド」少し痩せてしまった身体をそっと撫でる。

 帰宅して気づいたのは、今まで以上の細やかな反応だった。目で伝わるものがずっと深まった。傷口を舐めようとした時に「我慢してね、傷が早く直るようにね」と話しかけたら、それきり傷を舐めようとはしなかった(他の所はよく舐めていたけど)。そして私に確認するように、じっと見つめかえす。そんなひとつひとつに、心を込めて「ありがとう」と伝えた。
 本当に辛い経験だったけれど、私たちの間の目に見えない絆は、この経験で強くなったかもしれない。ニッキー、生きていてくれて、ありがとう。残りの時間ができるだけ長く、そして深いものでありますように。


■2004/11/04 (木) ひとりの誕生日

 今日あたり退院かと思っていたけれど、ニッキーはまだ病院にいる。早く戻るよりも、確実に回復して欲しいから、まだ我慢。病院に電話をしたら、このまま行けば土曜日に退院、と言われる。
 ニッキーが帰ってくる!
 嬉しかった。もちろん嬉しかった。一方で、重く重く責任を感じた。手術後の身体に負担をかけないように、もともと胃腸の弱いニッキーに胃拡張を再発させないように、しっかり回復して楽しく生活して貰えるように、これからが相棒として頑張る時だ。
 院長が「しばらく無理をさせずに、身体の調子を見てあげてください。回復すれば介助犬としての仕事には問題はありません」と言ってくれた。ニッキーにとっての仕事は、頭を使う楽しみであり、私と一緒にどこへでも行く喜びでもある。ニッキーが楽しみ、喜べる範囲で、年齢と体力と健康状態を考えながらもうしばらくは続けさせてあげたい。
 ニッキーのために何ができるのか、いちばんしあわせに暮らして貰うために、どうしたらいいのか。一生懸命頭と身体を使って過ごした。帰宅したニッキーがゆっくり休める場所を用意したり、楽な姿勢でフードが食べられるように工夫したりもした。助けが必要な時にお願いできる人たちに改めて連絡もした。夜間に診て貰える病院を探すのも、サプリメントやフードの情報を集めるのも、私がひとりで長距離を動かせる車椅子を検討するのも、みんなニッキーのため。
 今日一日、ニッキーのために考えたり動いたりしながら過ごしていたかった。

 ニッキーと過ごして気づいたこと、体験したこと、ニッキーに貰ったもの、助けられたこと…7年近い間に、ニッキーという犬の存在で、私はとても変わったと思う。留学時代の経験も、ニッキーを通して出会った人とのつながりも、介助犬を得て今までよりずっと広がった行動範囲も、今の私をつくる大切なもの。だから、ニッキーなしで今の私はありえない。そんなことを考えた。
 今日は私の誕生日。
 でも、私の身体の一部であり、心の一部であり、存在の一部でもあるニッキーが、まだ全快していない。ニッキーのためにできることをして今日を過ごそう。そしてニッキーが帰ってきたら、ふたりでお祝いしよう。お互いが大切な相棒として、これからも続けていく日々のために。


■2004/11/01 (月) 我慢

 術後2日。ニッキーがいないことに慣れない自分に気づいた。椅子を引く時は、後ろに寝ているはずのニッキーのしっぽや足を踏まないようにそっと引く。水入れが空になっていれば、新しい水を入れる。外に出るときはポケットにビニール袋を入れる。道を歩く時は左側に大型犬1頭分の幅をあける。

 面会に行くとニッキーは、昨日よりずっと元気だった。車椅子の音で気づいて、部屋の入り口の方を向いて待っていた。しっぽを振って、喜びをいっぱいに表して、ぱっと立ち上がって迎えてくれた!
 昨日は生気のなかった目が、いつもの表情豊かな目に戻っている。「そうだよ、これがうちのニッキーだよ、やっと本物のニッキーが戻ってきた…よかった、生きててくれて」いつものサングラスの下で、指先で涙を払った。昨日、手術後初めて生きているニッキーを見た時は泣かなかったのに、今日になって涙が出るなんてちょっとおかしい。やっと「本当のニッキー」に再会した気がした。
 いつもほど元気ではなくても、喜んでいるニッキー。帰る時に後追いするかもしれないと心配していたら、獣医さんが小型犬サイズの食器を持ってやって来た。「これから術後初めてのご飯なんですよ」と、柔らかくした缶詰のフードがほんの少々。
「ちょうどよかった。淋しがるとかわいそうだから、ご飯に集中しているうちに、さっと帰ります」と言ったものの…。ニッキーさん、自分のご飯だと分かった瞬間に、一生懸命きちんとおすわりして、全神経をお皿を持った獣医さんに集中させた。エリザベスカラーの陰になって、私の姿なんて視野にも入っていない。私よりご飯がいいのね………
 でも、嬉しかった。それだけ回復して、いつも通りのニッキーに戻ったということ。車椅子のブレーキを音を立てないように外し、さっと帰った。ニッキーの回復が嬉しくて、車椅子をびゅんびゅんこいで外の道をしばらく走ってしまった。

 その後トレーナーから電話があった。「面会に行ったらニッキーは余計に不安になるよ。連れて帰ってくれなければがっかりする。心配だという自分の気持ちよりも、犬の気持ちを優先すべきだ」と叱られた。獣医さんは「面会に来ても暴れなければ問題ない」と言うけれどそれは犬の身体を考えたこと。ニッキーの気持ちを考えなくちゃ。
 今日、元気な姿を見られただけでいい。退院まで面会は我慢するから、ゆっくり休んでね、ニッキー。


(C)Yuki+Nicholas, http://blackdog.whitesnow.jp/