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手をつないで(ためにならない介助犬のはなし・1)

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どんなもの?

 介助犬に車椅子を動かしてもらうとか、歩行を補助してもらうとか。経験したことのない人には、実際のところどんな感じなのか、想像しづらいと思う。私も、経験するまでは分からなかった。

 車椅子を使う友人は、私がニッキーのハーネスを握り、車椅子を引いてもらっているのを見て、「ああ、誰かの電動車椅子につかまって引っ張ってもらうような感じかな?」と言っていた。私も最初に、介助犬が車椅子を引くビデオを見た時、そう思った。同じ障害を持つ友人が、私と同じ経験をしていて、同じことを想像するのがおかしかった。

車椅子から手をつなぐ

 介助犬がハーネスで車椅子を引いてくれるのを、何年も経験した今、私は「手をつなぐ」感覚が最も近いと思う。電動車椅子のように、一定した強い力で動くのではなく、ちょうど横に歩いている誰かと手をつないでいるように、犬の動きが私の手に伝わる。

 以前アメリカで、ある介助犬訓練所の人が、これから介助犬と暮らしたい・車椅子を引いて助けて欲しいという人に、「こんな感じですよ」と説明し、車椅子の人の左手と自分の右手をつないで、車椅子を引っ張りながら並んで歩いているのも見たことがある。犬の背中は立っている人の手より低い位置にあるから「ぶら下がる」ことは出来ないし、いろんな違いはあるけれど、やっぱり近い感覚らしい。

 その人に聞いてみた。「人の乗った車椅子を片手で、手をつないで引くのは、大変ですか?」と。その人は「相手が車椅子の上で重心を保っていれば、動き出す時以外それほど力はいらない」と答えた。「ちょっと手を貸している、という普通の感覚だね」と。

手をつないで歩く

 歩行を補助する場合も、「手をつなぐ」ようなものだと、ゴールデンリトリーバーの介助犬に歩行を助けられていたアメリカの友人が教えてくれた。

 歩行に不自由がある人なら分かるように、人の手は、実はとても不安定だ。手すりのようにしっかりと支えてくれるのとは違う。でも、ある程度の歩行が可能な人なら、バランスをとるのに役立ち、引っ張られても大丈夫な人なら、少々引っ張ってもらうことで、歩行が速くなる。

 どんなに大きな犬でも、背中に人の全体重を支えて歩いたら、骨や筋肉に負担がかかる。体重を支えてくれるのでなく、誰かと「手をつなぐ」ように、バランスの支点となってくれると考えれば感覚的に分かりやすいだろう。

手から伝わる

 私の動きに合わせてニッキーが歩いてくれる。必要な時は私を引いて前に進んでくれる。私にとってそれは、以心伝心の相棒と手をつないでいる感覚。

 手すりのように頑丈でも、電動車椅子のモーターのようにパワフルでもなく、そういうものの「代わり」にはならない。もっと不安定で、でも微妙な感情も伝わる感覚である。

 車椅子が一定の速度でなめらかに進んでいる時は、同じ歩調で歩くニッキーからは何も伝わって来ない。でも、車椅子の勢いが落ちたり、でこぼこに引っかかったり、傾斜に流されかけたりすると、ニッキーの動きがハーネスから手に伝わり、車椅子はそれにつれてまっすぐに動く。そういうちょっとした時に、ああ、ニッキーが一緒にいてくれてよかった、と感じる。

 ハーネスを通してニッキーの細かな動きや、呼吸のリズムや、歩調が伝わってくるのと一緒に、ニッキーの気持ちも伝わってくる。元気なのか疲れているのか、何かが気になっているのか、私に甘えているのか、仕事をやる気になっているのか、早く帰ってごはんを食べたい一心なのか。

 私が疲れていればそれを察して、ゆったりした動きをしてくれる。逆に、私がニッキーをいたわる時ももちろんある。

 そういうことも含めて、機械や自助具に例えるより、誰の記憶にもある「手をつなぐ」という優しい感覚が近い、そんな気がする。

(C)Yuki Nagaoka, 2006

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